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32 中高年が行く南インド57泊59日⑧ (チェンナイ→マハバリプラム)

 広くて明るくてお湯の出る、が、トータル居心地としては 中の下 というチェンナイ・エグモア駅のリタイアリング・ルームを翌朝早く出て、路線バス 27B でモフジール・バス・ターミナスに向かった。
 マドゥライでの「わたくしは添乗員ではありません宣言」のせいか、心なしかマリーさんが積極的に動いているような。バス停を探したりとか。

 で、到着したターミナルは絶望的に広かった。乗り場案内(英語表記)を発見したのだが、マハバリプラムの文字がない。制服姿のおじさんが通りかかったので尋ねてみると、ダイレクトバスはないと言う。えっ。そうなん? 

 2002年の時は、タンジャブールからの夜行バスが夜明け前に着き、すぐにマハバリ行きに乗り継げて、海岸沿いを、ベンガル湾から昇る朝日を見ながら行ったのだが。
 世界遺産があって国民にも外国人にも人気の地、なのに直行便がなくなった?

 おじさん(職員であろう)は呆然とするわたしたちをエンジンのかかったバスへ促して、「けーらばかむ(?)でチェンジ」と言った。そして、車掌と運転手に「こいつらマハバリプラムへ行きたいらしい」みたいなことを告げると、二人は頷いて「けーらばかむ チェンジ」「けーらばかむ チェンジ」と、わたしたちを乗せた。エアコン車、ひとり60ルピー。結構高いんですけど。
 案内おじさんはバスが出るまで外に立ち、手を振って見送ってくれた。

 令和5年の現在、皆さまの中には「スマートフォンを持たぬからそういうことになるのや。スマートフォンさえあればリアルタイム・インフォメーションをゲットできるのや。スマートフォンなしの旅などあり得へん」と嘲笑し、このページを閉じかけている方もおられよう。
 でも、バスがなんかわけわからんくなってるのとスマフォは関係ないと思う。持ってても同じことになった気がする。

 で、エアコンバス。市街地を1時間ほど走り、車窓からのんびり感が漂ってきた頃、車掌が「けーらばかむ!」と、わたしたちを呼んだ。乗り換え地点に着いたようだ。
「その信号を渡ってバス停で待て。ナンバル515!」「ナンバル515!」 
515番のバスがマハバリプラム行きらしい。
 交差点で降ろされ、言われた方へ向かう。振り返ると、降りたバスが左折しようとしていたので手を振ったら、車掌と運転手も上げてパンパンパ〜ンとクラクションを鳴らして曲がっていった。
 高いと思った60ルピーも、エアコン付きでこれだけ乗ってこんなに感じよく送り出してもらえたらぜんぜんOK。と前向きな気持ちになったが、ここはけーらばかむ(たぶん)。目的地はまだ先だった。さて、515番はいつ来るのか。

 と、バス停らしき場所にミニバスが停まっていた。マイクロバス。プライベート・バスというか、白バス。少年車掌が行き先を連呼して客を集めている。
「マなんとかかんとか(すごい早口)! マ・・・! マ・・・!・・!・・!」
 マハバリプラム?
 尋ねると「イエス」だ。よっしゃ、515を待つよりこれに乗ろ。
 1パーソン30ルピーを徴収されたが、あとから乗ってきた地元の人も30払っていて安心する。バスはほどなく補助席まできっちり満席になり、発車した。

 昔の海沿いの道は無くなってしまったのか、バスは高層マンション群やぴかぴかの社屋が延々とつづく新しい道路を南下していく。つまらんなあ景色。が、突如大きな橋にさしかかり、渡ると急に田舎になった。そして、乗客はそれぞれ降りたい所で降りていき、あっというまにわたしとマリーさんだけが残されてしまった。
 少年車掌に「どこ行く?オールドバススタンド?」と聞かれ、そうしてほしいとお願いする。
 バスは見覚えのあるマハバリプラムの中心を抜け、村の南端のバススタンドまでわたしたちを運んでくれた。ご面倒をおかけしました。

 いやはや。やっと着いた。
 ツーリストエリアは狭いので宿は歩いて探せるのだが、ミニバスの外にはオートリキシャマンがひとり待っていて、
「ゴー!チープホテル!ノーマニー!フリー!」
 宿までタダで乗せてやると言う。ホテルで手数料をもらうのだろう。気に入らなかったらリキシャマンにいくらか払って他を当たればいいので、とりあえず乗る。暑いし疲れてるし、お腹空いてるし。

 連れて行かれたラクシュミー・コテージ LAKSMI COTTAGE は、しかし、思いのほかいい感じだった。メインストリートから奥まっていて静かだし、ビーチが近い。コの字型3階建ての2階端、W 450ルピー。部屋は狭いが中庭の見下ろせる廊下に机と椅子があり、屋上に洗濯物が干せる(そこ大事)。チェックイン。リキシャマンもにこにこ。

 ああ、マハバリプラム。
 チェンナイ・エグモア駅のリタイアリング・ルームを出てからおよそ6時間。じつに遠かった。でも、アメージング。苦労して来た甲斐があったではないか。
 チェンナイに戻る日、まさかあんなことになるとは知らずにね。

 ⑨につづく

 かなり後日(帰国後)、ふと思いだして、Googleマップで「けーらばかむ」を探してみたら、チェンナイとマハバリプラムの中間地点ぐらいに Kalavakkam というのを見つけた。州営バスの停留所マークがあったので、エアコンバスを降りたのはたぶんそこだと思われる。 




 



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