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41 思い出はロシュマロイ (バングラデシュ:シレット)

 また甘いものの話で恐縮ですが、もうひとつ書かせてください。
 ロシュマロイのことを。
 それはバングラデシュの、ミルク菓子ミスティ(甘甘)をさらに練乳に浸した甘甘甘甘(ゴルフボール状)。
 ぜったい食べようと意気込んで行ったのだけど、9月末のバングラデシュはまだ雨季が明けきっておらず、ダッカに着いた日は雨だった。

 ホテル・ミッドウェイに荷を解いた翌日も曇り時々雨だった。ロビーでぼんやり座っていたら、家族連れ客の小さな女の子がつつつと近づいてきて、キャンディを1個くれた。
 飴を舐めながらさらにぼんやり座っていたら、ホテルのスタッフが「止んだから外に出てみたら?」とにっこりする。そうね、外に出ないとね。

 しかし、だ。2002年のバングラデシュはまだ外国人が少なく、覚悟はしていたけれど、外を歩くと非常に人気者になるのであった。

ちょっとチャイを啜ってるだけで
こんなことに

 誰もがシャイで人が好く、居心地は悪くないのだけど、若干、疲れる。そもそもダッカという街が大きすぎる。大きくて、ヒトも車もサイクルリキシャも多すぎる。なにか、こう、うねうね、ごおぉぉぉぉと街全体が巨大な生き物のよう。
 そこへ雨が降って、わたしは負けていた。人の少ない静かなところに行きたい・・・・

 そんなわけで、いくつか考えていたルートを全部やめ、ノーマークだった北部のシレットという町まで列車で逃げた。

 シレットも天気はどんより、人も少なくなかったけれど、ダッカに比べたらうんと田舎でのんびりしていて、ガイジン(わたし)のことも遠巻きににこにこ眺めるだけで放っておいてくれる。
 マーケットを歩き回る。たのしい。魚市場がすごい。たのしい!
 来てよかった、シレット。
 そして、そうだ、ロシュマロイの話だった。

 町外れまで歩いてお菓子屋さんを見つけた。
 おおおっ、いろんな種類のミスティがある。ああっ、あの白いのがロシュマロイだな。 
 ショウケースを凝視していたら、店主と思しきムスリム帽のおじさんに、奥から手招きされた。店内で食べられるらしい。
「ロシュマロイ?」と指差すと、満面の笑みで小皿にひとつのせてくれた。
 うまいはあまい。想像どおりの甘さ美味しさで幸せ・・・。

 見守ってくれている店主と先客のおじさんたちに、すごくおいしいです、の顔をすると、店内の緊張が解けてほぉぉぉとどよめきが起こった。
 そして、店主がお代わりを、練乳たっぷりでのせてくれた。1個でじゅうぶんなんだけど、せっかくなのでいただく。笑顔とどよめき。
 なぜか、バター付きロティも1枚来た。えー、困ったな。でもロシュマロイの練乳にひたしていただく。もっと笑顔とどよめき。
 も、もう満腹です、晩ごはん食べられへん、の顔(どんな顔だ)をすると、皆、納得の笑顔。なんてラブリーな町なんだ、シレット。

 さて、それでは会計を、と財布を出すと、店主が「ノー、ノー。ノー マニー」代金は要らないと言う。えっ、それはあかんやろ。沢山食べたよ、払わせて。いくら?
 けれど、店主は「ユー、ゲスト」と譲らない。他のお客たちも、いいからいいから、みたいな感じなので、うーん・・・ここはご馳走になるのが礼儀だろうか。お言葉に甘えて、それでは
「しゅーくりあ、しゅーくりあ」
 何度もお礼を繰り返すしかなかった。見送られて店を出る。
 しばらく歩いて振り返ったら、まだみんな立ってにこにこ、こちらを見ていた。
 なんか、ちょっと、涙が出そう。お菓子をご馳走してくれたからとか、そういうんじゃなくて、なんていうか。
 今また思い出して泣きたくなってしまったよ。




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