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28 中高年が行く南インド57泊59日④ (カニャクマリ→ラーメーシュワラム)

 バスの発車時刻は7時半。1時間前からバススタンドでスタンバイしておく。乗り場を確認して、トイレに行ったり売店をのぞいたり。

 予約窓口に ”バスはデラックス・コーチ” と掲げてあるし、チケットにも
 CLASS : ULTRA DELUXE
と印字されているので、もしかしたらぴかぴかのバスかもしれない。エアコン付きだったりして。いや、でも期待しないほうがいいわな、インドやし。などと思っているうちに当のバスがやって来て、それは甚だしく期待以下の車体であった。250ルピー払ってこれか。ま、いいけど。

 乗り込んだのはわたしたち二人とおじさん四人組、やんちゃな青年四人組、おとなしい若いカップルひと組。

 ぼろぼろのウルトラ・デラックスはカニャクマリのバススタンド定刻に発車した。ラーメーシュワラム到着予定は8時間後。市街地を出ると幹線道路から外れて、がったがたの道をたまに横転しそうになりながら進んでいった。各停というか、道端で手を上げる人がいれば乗せ、降りたい人が合図すると降ろし、常に乗車率50~70%程度の風通しのいい車内だった。窓が閉まらないから余計に風通しがよい。ときどき振動で閉まり、開かなくなった。そして忘れた頃に振動でまた開いた。
 そんな窓からでも、つぎつぎと過ぎる景色を眺めているのは旅の至福だ。大きな青い空、田んぼ、林、椰子園、バナナ園、ときどき村、また田んぼ。クラクションを鳴らして追い越す牛、山羊、驢馬。
 マリーさんに窓側の席を譲ったのがちょっと悔しいけどな。大人げないが。

 バスは休憩を2回はさみ、さして問題なくずんずん目的地に向かっている、いてほしい。が、どうなんだ。到着予定の15時半はとっくに過ぎている。ラーメーシュワラムは亜大陸から少しばかり沖にあって橋で繋がっているらしい。なので、近づいてきたら海が見えそうなものだが、右も左も地平線まで椰子のジャングルだ。
 道はいつのまにか新しい舗装道路になっていたが、ときどき通過する村や集落はなくなった。マリーさんが「今ここで降ろされたら、椰子の木の下で静かに死んでいくしかない」と言う。怖いぐらい見渡す限り椰子の木。

 その椰子の木が疎になり、殺伐とした荒地がしばらく続いたあと、白い砂漠に出た。なんだあれ。他の乗客が外を指差して感心している様子なので、タミルナドゥ州の名所のひとつだろうか。
 と、大きな看板に"SALT” と英語表記が読めた。なんと塩田だ。”SALE" の看板もある。個人売りもしているのか。人の気配はまったくなく、工場や作業小屋のような建物もない。ただただ白い地面がぼこぼこと続く。インド、広い。

 でも塩田があるってことは遠からず海ではないか。ひたすらボロバスに揺られる。道がいいのでものすごいスピードで走る。激しい揺れに座席は外れそうだし、車体の側面も落ちそうである。どうか着くまで壊れないでほしい。
 ふたたび椰子の木が目立ち始め、海は突然現れた。
「ああっ うみ うみ(日本語)」と声に出してしまう。他のみんなも「おおっ *** ***(タミル語)」と叫んで立ち上がる。顔を見合わせてイェイ!な感じで、不安なのはわたしたちだけじゃなかったようだ。

 ほどなくバスは橋にさしかかった。右も海、左も海。並んで線路もあり、列車に追い越された。

スリランカも近い

 

マリーさんの頭越しに撮る

 橋を渡りきったらすぐにバススタンドだった。予定より2時間遅れたけれど、ウルトラ・デラックスがばらばらになる前に無事到着。周りは何もなく、数台のオートリキシャが客待ちをしているだけだ。朝7時半からおよそ10時間、同乗した運命共同体たちと軽く目で挨拶して(南インドの人たちは穏やかで控えめだ)、それぞれリキシャに乗った。

 日暮れまでしばらくありそうだし、町へ出れば宿はなんとかなるだろう。
 ラーメーシュワラムの中心はラーマナータスワミ寺院だ。リキシャに「テンプル」と告げると、オッケーの印の、あの、首をくいくいっと左右斜めに振る仕草をして、ぶるんと勢いよくエンジンをかけた。
 はじめまして、ラーメーシュワラムーーーーー

今はまだ静か

 町は近かった。寺院の正面で降ろしてもらう。宿は寺院周辺に集まってあり、最初に訪ねた ISLAND STAR HOTEL にあっさり泊まれることになった。
 ただ、1週間だけという条件付き。なんで?
「来週、ヒンドゥー教の大きなお祭りがあるからね。もう予約いっぱいで」
 な、なに。
 祭りて。うぉぉ・・・
 そうだ、この季節は南インドのあちこちで大きな祭りがあるのだった。カミサマの前では人間など無力であることを知らされる祭りが。 
 ラーメーシュワラムは南インド屈指のヒンドゥー教聖地。きっと凄まじいことになる。ああ・・・

⑤へつづく

祭りの思い出は痛い↓

 


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