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45 ニューデリーの悲喜劇(旅リハ)③ リコンファームの呪い、リキシャの憂い

 なんか違う。イメージと違う。想像してたのと違う。インドはこんなはずじゃない。
 そうか、小洒落たホテルがあかんのや。最初から堂々と安宿に泊まっておけばよかったんや。
 でもしょうがない。今回はリハーサル。最後までやり抜かねば。
【4日目】
 朝、エアインディアのオフィスまでリコンファームに出向く。そう、昔は出発72時間前までに予約再確認というのを行わなければならなったのよね。
 さて、オフィスに着いたら様子が変。コンピューターの不具合で受け付けできないとのことだった。なんてこと。帰国便に乗れなかったらどうしてくれるん。 
 が、番号札が配られ、順番に呼ばれている感じはする。で、わたしの番が来て、カウンターで帰路の航空券を見せると、係の女性が、わらばん紙にボールペンで、チケットの内容を書き写し始めた。て、手書き・・・
 わたしの不安オーラが伝わったのか、女性は顔を上げ「ノープロブレム、アフター、インプット」とパソコンを指した。

 もやもやしたままオフィスを出ようとすると、旅慣れた風の日本人青年に声をかけられた。「リコンファームできました? 大丈夫っすかねぇ」
 どうなんでしょうねぇ。
 青年は今晩の夜行列車でどこやらに移動すると言う。「よかったらメシ行きませんか」と誘ってくれたので、メインバザールまで歩き、薄暗い食堂で豆カレーを食べ、熱々のチャイを啜った。それは、そこはかとなくイメージのインドだった。
 わたしの心のインド。ありがとう、青年。
 手書きリコンファームは不安だが、イメージのインドに身を置けて満足だ。

 不本意なホテルに帰った夕方、部屋の電話が鳴った。料金未払いのPツアーかと思ったら、
「飛行機で隣りだったMといいます」
 ものすごくびっくりした。あの学生さんか。
「突然すみません」機内で入国カードを書いてるとき、名前とホテルを盗み見たとのことだった。
 そういえばお互い名乗りもしなかったし、不安そうだったのに見捨てて申し訳なかった。宿でできた友達と今アーグラーに来ていると言う。よかったよかった。
家にポストカード送りますと言われ、口頭で住所を交換した。
 ゆるゆるのんびり、良い時代だったなあと思う。
 旅先ではいろんな出会い方があるものだとしみじみした。

【5日目】
 日曜日。動物園へ行ってみよう。家族連れが多くてラブアンドピースな雰囲気に違いない。
 ちょっと不思議なんだけど、カーンさんの案内で街に出て以来、ひとりで歩いても誰もしつこく言い寄ってこないのだ。初日の午前中が悪い夢だったかのように、すいすい動き回れる。
 そんなわけで、通りでオートリキシャを拾い、地図を指して zoo と告げる。リキシャマンはOKと頷いて走り出した。
 ところが、だ。
 すいすいイケるなどと思い上がってはいけない。
 ほどなくリキシャは停車し、男がひとり乗り込んできた。えっ? ふたたび発車すると、リキシャマンが「マイフレンド」と言う。誰やねん!!!
 マイフレンドはにこやかに「グッドサイトシーイン! アーグラー! タージマハル! バラナシ〜!」などと連呼する。
 あ〜〜〜 悪徳旅行社に引っかかってしまったのだった。
 
 あんたらとはどこにも行かへんで。今ここで降ろして。
 と、怒りをあらわにしても二人はへらへらしてるから腹が立つ。「まずzoo、それからどこどこ・・・」と、へらへら。言うてるうちにzooに着いたので飛び降りて、帰れっ(日本語)と50ルピー紙幣を投げつけると、「ノー チェ〜ンジ」とにやにやする。要らんわ釣りなんか。
 
 油断した自分が悪かった、と反省し、チケットを買って入った動物園は、しかし、予想どおりファミリーいっぱい、広々と気持ちよく、和やかで楽しかった。
 また地獄のち極楽。
 堪能して園を出て、屋台でチョウメン(焼きそば)を食べていたら、日本人カップルが「ここ、いいですか?」と座ったので、一緒に中華を頬張りながら " 悪いインド人 " の悪口を言い合ってストレスを発散させた。みんないろんな目に遭っている。

 カップルとは宿が近かったので、帰りのオートリキシャに同乗させてもらった。
 若干トラウマになりかけていたのだが、リキシャマンは走り出すとメーターを倒し、無駄口をたたかず、淡々と仕事をする普通の人で、心底ほっとした。
 まあ、きっと、ほとんどが普通の人なんだろうけどね。

④最終回につづく


 

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