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【自伝】生と死を見つめて(12)復興応援キャラクター

37歳の頃、夫と二人で試行錯誤しながら、あるキャラクターを作り上げた。

夫がデザインを担当し、私が公式ウェブサイトやSNSを担当した。被災地の復興を応援したり、地元の名産品や観光地等を紹介する、というコンセプトだった。「地元に貢献出来る活動をしたい」というのは、夫の昔からの夢だった。また、「被災地のために何か出来ることをしたい」というのは、私がずっと願っていたことだった。

初めの頃は順風満帆だった。ありがたいことに、応援して下さるファンも増えて、全国各地のイベントに呼ばれたり、グッズの売れ行きも上々だった。キャラクター活動で得た収益は、地元の震災義援金に寄付した。

沢山の方々とイベントで知り合えたり、夜な夜なファンの方々とSNSで交流したりして、皆様の笑顔を見れたり、喜んで頂けることが、活動の大きな原動力となっていた。


キャラクターグッズの販売のために、ECサイトを立ち上げ、ネット通販での物販も行なった。グッズの写真を撮影したり、ECサイトへの入力作業、受注や梱包・発送まで、全て自分達で行なった。大変だったけど、やりがいのある仕事だった。

お金がないから、グッズも自分達の手作りだったり、有志の方に作って頂いたりしていた。グッズは一つ一つ心を込めて作った。

美術館の創作室へ行き、シルクスクリーンを使ってTシャツを手作りしたり、デジタルミシンでぬいぐるみの顔を刺繍したりした。全て試行錯誤しながら、手探りで行なっていた。

物販ブースのディスプレイも全部自分達で作った。100円ショップで使えそうな物を購入し、それっぽく見えるように仕立て上げた。

イベントでは、グッズが飛ぶように売れた。手作り生産なので、在庫はあまり多くなく、すぐ売り切れになってしまって、楽しみにしていて下さったファンの方が購入出来なかったりして、申し訳ないことをした。

遠征時には、狭いコンパクトカーにありったけのグッズを詰め込んで、長距離運転で移動した。途中でその土地の名物料理を食べたり、観光したりもした。夫が歴オタなので、各地のお城をよく見に行った。また、二人共温泉が大好きなので、イベントが終わった後には、必ず現地の日帰り温泉に行っていた。

車にはナビがなかったから、スマホの地図アプリを使っていて、それが上手く作動せず、よく道に迷っていた。そんなことも楽しかった。

宿泊する際には、お金がないので車中泊をした。後部座席には荷物がパンパンに詰まっているので、リクライニングシートも倒せずに、座った状態で寝ていた。今思えば、よくそんな無茶なことが出来たなぁと思う。

明け方には、何故かコンビニで100%のオレンジジュースを買うのが習慣となっていた。その味と、その時の夜明けの光景を、今でも忘れられない。

他のキャラクターさん達との交流も楽しかった。コラボグッズを作ったり、一緒にUstreamに出演したり、有志の方々と飲み会を開いたりもした。

「被災地と応援して下さる皆様のために」これらをモットーに、情熱を注いで、ひたすら前に突き進んでいた。


キャラクター活動で最も苦労したのは、お金がないことだった。

二人共、時間も体力もギリギリのところでやっていたので、副業はせずに、キャラクター活動だけの専業でやっていたのだが、とにかく収入が少なかった。人気はあったのに、それを収益に繋げることが出来なかったのだ。やりたいことやアイデアも山ほどあったのに、お金がないばっかりに、叶えられなかったことが沢山あった。

イベントの遠征先へ向かう途中、ECサイトの売上代がその日のうちに振り込まれる予定になっていて、もしそれが入金されないと、現地での活動費が全然足りなくなってしまう、なんてこともあった。その時はなんとか間に合ったけれど、いつもこんな調子で、ハラハラドキドキの連続だった。

ある時は、うちにあるありったけの本やCD、DVD、服などを、買取業者に売りに行ったこともあった。大切にとっておいた物も泣く泣く手放した。その時は本当に悲しかった。


心血を注いで行なってきたキャラクター活動だったが、やがて激務の無理がたたって、二人共だんだん心身の調子を崩していった。そして働くことが難しくなり、活動を継続するのが困難な状態となってしまったのである。

コロナのこともあり、自宅でも出来る活動として、YouTubeに動画を投稿したりもしていたが、それも長くは続かず、10年間の活動期間を経て、キャラクターとしての活動を卒業することとなった。

つらいことや大変なことも多かったけれど、それ以上に楽しい思い出も多かった。今はもう、体力的にも金銭的にもキャラ活は出来ないけれど、このキラキラとした大切な想い出の数々を、いつまでも心の中に大切にしまっておきたいと思う。


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