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寄り道

小学校低学年のころ、近所に乳牛がいた。
学校帰りに寄り道しては眺めたが、
気が小さい私は近づくことはできなかった。
牛が怖いのではなく、人に叱られるのが怖かったのだと思う。

東京23区内、建売住宅と公営住宅と、
古くからの地主さん宅が混在する地域だった。

小学校は子どもの足で20分ほどかかるところにあった。
母がパートに出ていたので、私は二年生まで学童保育に通っていた。
三年生か四年生までは入れたはずだが、
私はとにかく学童がきらいだった。
理由はたくさんあったけれど、
早く帰ってテレビを見たり、音楽を聴いたり、
なにより本を読みたかった。

通学路はコンクリートの板で蓋をされた暗渠で、
一本脇道にそれると小さな本屋さんがあった。
牛を見に行くよりは近く、
万一バレても怒られる可能性は低かった。
一階が店舗、二階がお住まいであったと思う。
たいていご夫婦のどちらかがレジに座っていた。

私には姉が一人いる。
いつも二人でマンガ雑誌を買ってもらい、交換して読んでいた。
小学⚪︎年生のときもあればりぼんやなかよし、
マーガレットや花とゆめのときもあった。

母もマンガは好きで、
「活字のあるものはすべて勉強になる」と言って、
本だけは制限なく買い与えてもらっていた。

とはいえ子どもだって、我が家にそんな余裕があるとは思っていない。
毎週のように図書館に行って制限冊数まで借りて、
どうしても欲しいものだけ買ってもらった。
全集など高価なものはさすがに言い出しにくかったが、
同じ本を何度でも繰り返し読んでいたせいか、
母は「それだけ読んだら元がとれたね」と笑っていた。

高校生になると電車通学のため、
駅ビルの大きな書店に寄り道できるようになった。
それでもなぜかMUSIC LIFE誌は、
地元の本屋さんに頼んで購入していた。
毎発売日にはぐるりと店内をまわって、ほかにも欲しい本をさがした。

本屋さんというと、あの店を思い出す。
実家を出てから足が遠のき、やがて両親も引っ越してしまい、
いつ閉店されたのかもわからない。

私の一部は間違いなく、
あの店の選書からできているはず。
そういう本屋さんが胸の中にある人は少なくないと思う。
そんな本屋さんになりたいと思う一方で、
自分に商売ができるのか、そこでまた足踏みが始まる。

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