笑いと教養①~香炉峰の雪は…
唐王朝の時代の中国の詩人、白居易(雅号は楽天)の詩に
香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁
(香炉峰下新たに山居を卜(ぼく)し
草堂初めて成り偶(たまたま)東壁に題す)
という作品があります。白居易が左遷されたときに読まれたもので、その中に
という一節があります。
そして日本の平安時代。清少納言は一条天皇の中宮・定子に仕えておりましたが、ある雪の降る日に、定子に「香炉峰の雪はどんな感じ?」と訊かれたので、他の女官に御格子を上げさせて、御簾を高く巻き上げると、定子は喜んで笑った、と言います。「やるやん、ちゃんとあの詩知ってて、スッと出してくるやん」との喜びの笑いです。この件を、清少納言は自著の随筆「枕草子」に記しております。
ここで押さえておきたいのは、二人とも白居易の漢詩(元ネタ)を知っているほど、教養がある人物だった、そして、定子のネタフリに、清少納言は的確に対応できた、という2つのポイントがあるということです。後者は「機転が利く」「頭の回転が速い」ことの証左である一方、前者は、笑いを共有するに際しては「教養」が必要である、ということです。
「香炉峰の雪」は当時の身分の高い人の間、つまりある一定の範囲でのみ通じる笑い・ユーモアであります。今日のお笑いにおいても、ある程度の知識・教養がないと笑えないのは同じで、この「程度」「範囲」について思うところを、今後(おそらく2~3回に分けて)綴って参りたいと思います。
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