1106

1106です。

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彼女のチョコレートと優しい冗談

2月14日。本来であれば何気無い冬の1日である。 けれど世の男は意識していないと言わんばかりに女の一挙手一投足に目を見張り、世の女は好きな男に如何なる瞬間にそれを渡すべきか思考を凝らす。 一説によると企業が売上向上の為、宣伝を促しイベント化を図った戦略的なものらしい。 甚だ馬鹿馬鹿しい。ただその一言に尽きる。 手作りであろうと市販の物であろうと所詮はチョコレートである。 欲しくないと言えば嘘になってしまう。ただ肝心な事はどれ程手に入るかではなく誰から手に入れるのか、というもの

    • “週休4日”君と過ごした日を思い返す度、君が欲しくなってまた珈琲を啜る。

      肌を刺すような寒気に無理矢理身体を起こす1月の朝。中々、目が開かずに辺りを手探る。ようやく見つけたレンズの厚い黒縁の眼鏡を乱雑に掛ける。 正月気分も抜けて妙な気分に包まれるのが最近の習慣になっている。妙な気分の正体は恐らく”あの子“の事だ。 これまで約1年間、“あの子”に勉強を教えてきた。それは1階の喫茶店の珈琲豆をどうしても手に入れたいだとか、沸る慈善思考の持ち主だとか、そういう事では無い。 甚だそういう事では無いのだ。 誰にも打ち明ける事なく秘めてきた。ただ“あの子

      • 17時57分、君と後悔。

        少し水気が含まれた淡い雪。12月の初旬。世間は師走と称される程だから、やはり人の往来が普段より速くも感じる。 15時47分、普段から利用している私鉄の改札を通る。改札から50歩程離れた木造のベンチで君は休んでいた。 やけに絵になるその姿に安堵なる物を心に浮かべ歩を進める。周りには人が見当たらず自らの地面を踏みしめる音が冴えて響く。 〇 お待たせ 賀 遅い 〇 雪のせいでゆっくり歩いてた 賀 寒い 〇 僕が悪かったよ、帰ったら紅茶淹れるよ 賀

        • “週休4日”君との時間を堪能する程、別れ際が惜しくなる。

          雨音が屋根を突く音で目を覚ました。元々、雨を好まない僕にとって本来なら2度寝を優雅に味わう所だがそういう訳にもいかない。 腫れぼったい瞼を擦りながら洗面所へ覚束無い脚で向かう。慣れた手つきで萎んだ歯磨き粉の中身を捻り出す。はねた髪を直しながら冴えない顔と対面する。 今日は“あの子”の所へ行くのだから間違っても格好の悪い姿でいてはならない。昨晩から選び抜いた白のTシャツに黒のダウン、淡い茶のコーデュロイのズボンをまとい入念に姿見で確認する。 既に数回は“あの子”の家に上が

        彼女のチョコレートと優しい冗談

        • “週休4日”君と過ごした日を思い返す度、君が欲しくなってまた珈琲を啜る。

        • 17時57分、君と後悔。

        • “週休4日”君との時間を堪能する程、別れ際が惜しくなる。

          覆水、盆に返らず。

          「覆水盆に返らず」 これと意味を同じとした言葉をつくれ、というのが次回の講義までの課題として2分前に皺の多い老教授より言い渡された。 このことわざは、1度起きた事は2度と取り返しがつかないと言うもの。つまりは盆から零れ落ちた水は2度と盆へは帰れないのだ。 静かな講義室に小さく反射を繰り返して届く教授の細い声。ただでさえ重たい瞼が余計、重力に逆らう事に躊躇っている。それでも闇雲に白い紙切れに板書を殴り書いていく。 そんな睡眠を促す講義室の後列から3番目の窓側に座る僕は前

          覆水、盆に返らず。

          雪と君と約束と。

          寒い。非常に寒い。身長よりも大きな看板を掲げながら黒いダウンジャケットのポケットで片手の暖を取る師走。僕は道行く人にケーキの存在を知らしめるべく路上で、こうして身体の震えと戦っている。 いつもよりも混み合う雑踏の中、師走と言うだけあって人の往来が賑わっているように思う。 街行く男女は幸福そのものを顔に浮かべながら僕には目もくれずに通りすぎてゆく。 簡易的に組み立てられた机の上には3つのホールケーキが丁寧に並べられている。 苺と生クリームがふんだんに誂えられたホールケーキは

          雪と君と約束と。