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チンコ怪人と授乳プレイ『シャドウ・イン・クラウド』

粗筋

 1943年、ニュージーランドはオークランド空軍基地。離陸直前のB-17爆撃機にモード・ギャレット空軍大尉が乗り込んだ。モードは女性であり、特務の詳細を明かさないこともあり機内は険悪なムードに。
 高度2万フィートで、機外に影を見るモード。爆撃機も徐々に異常を来たしているが、「グレムリンなんて戯言」と男たちは取り合わない。更には書類の詐称が見抜かれ、窮地に追い込まれていく…。


「クロエ・モレッツがグレムリンと地上で殴り合い」
 予告の時点でクソ映画確定じゃん!!…とお疑いの皆様。後半20分に限れば全くその通りなんですが、この映画実は、ジャンル横断が魅力なのよ。
 以下語って行きますが、全ネタばれするのでご注意を。


一幕目:密室サスペンス

 この映画、おおまかに云って3部構成になってます。乗り込んでグレムリンを直視するまでが一幕、攻撃が激化しモードの素性が露見する二幕目が続き、三幕目はバカ映画になる…といった具合に。経過につれてジャンルも代わっていくのですが、先ずは出だしから見て行きましょう。
 
 任務指令書を盾に、B-17に乗り込んだモード。乗組員は嫌がらせのために、彼女をボールターレット(機体下部に付いた、円形砲塔)に押し込める。その地点から、映画は1時間に亘ってこの銃座空間でのみ展開する。他の乗組員とは機内通信で会話するのみであって、「彼ら側」にカメラがカットバックしないんです。これが先ず面白い。

電話映画と言えばこれ。

 これには2つの効果があります。一つには、手の届かない相手と通話するしかない「もどかしさ」が生まれるところ。グレムリンは実在する、そのせいで機器が壊れていく…モードは自分の眼で見ているのに、彼女を疑っているクルーには信じてもらえない。
 おまけに、「開封厳禁」と断って残してきた荷物もたびたび話題になる。「開けたら軍法会議」とその都度退けるものの、次第に向こうの態度は硬化。モードが自衛のため発砲したことで、決定的な決裂を迎えてしまう。

 2点目としては、「逆にモードが不審にも見えてくる」ところ。これがフツーのモンスター映画なら、穿って観ない。しかし今作では、グレムリンは何か象徴的なんですよ。
 搭乗時には、華憐な女性の装いのモード。そのため機内無線では卑猥なジョークを投げつけられる。「女が大層な口を利くな」「ヒスだから」と悪口に堪えかねた時には、猛烈な反撃にも出る。そうした空気の中で、満を持して登場するグレムリン。赤茶色の肌をしたソレは、口いっぱいに開けてピンク色の舌をモリモリッと……。これは、亀頭じゃな?

 精神不安のヒロインが、女性蔑視のクルーに囲まれ、密室に閉じ込められる。「信頼できない語り手」なのでは?と疑問が生まれるんですね。実はグレムリンなんておらず、男性嫌悪に狂った彼女の妄想なのではないか…と。

二幕目:会話劇

 映画中盤に差し掛かると、映画の空気が変わる。彼女への信頼が増していくのです。
 彼女の真相が明らかになり、疑いが晴れたのがまず一因。発砲によりスパイ容疑が掛けられ、鞄が開けられる。そこには…赤ん坊が居ました。彼女はDV夫に耐えかね不倫をし、私生児を設けていた。発覚した以上、我が子に危険が及ぶやも…そのため書類をイジり基地を抜け出したのです。エロ親父たちも、流石に子持ちには強く出られない。
 加え、彼女の言動の裏付けがなされていきます。「お前らの誰よりも空を知っている」…その言葉通り、彼女は日本軍機をいち早く発見し撃墜する。また、他のクルーにもグレムリンを出る者が出始め、徐々に彼女の味方が増えていく。船長始め年嵩のクルーは未だ疑っているものの、旗色が変わり出すのです。

三幕目:バカ映画

 しかしチンコ怪人は黙っちゃあいない。エンジン一基を喪失させ、オマケにゼロ戦3機も登場して一気にピンチとなる。さあお待ちかね!ここから急激にIQが下がります。
 赤ん坊の鞄が機外に放り出されそうになり、モードはボールタレットから離脱。SASUKE宜しくひょいひょいと船外の突起を掴んで亘り、中央ハッチから復帰する。船外に放り出されたときは、空中ジャンプで復帰します。

予告の最後で放り出されるでしょ?眼下のゼロ戦が発した爆風で、逆再生みたいにポーンと帰って来るんですよ。
 その後はミソジニーおっさんがグレムリンに襲われる場面で陽気なBGMが流れたり、下を飛ぶグレムリンに物資をぶつける縦スクロールアクションが始まったり。最後は予告通り、地上でのスデゴロバトルですよ!!左ガード!右ストレート!スウェイで爪攻撃をかわし、その爪で相手のハラワタと喉首を引き裂くぞ!
 赤ちゃんも毛布1枚くるまった程度で胴体着陸の衝撃でも無傷なんですが…柔らかいからな!良し!

完璧超人とブーメラン

 一粒で3度おいしいB級映画…こういうのは嫌いじゃない。でも一点看過できないのが、モードの描き方が超人に振り切っているところ。そのせいで、後から振り返ると話(の前提)が破綻してるように見えるんです。

 モードが船外を移動する下りを上述しました。ここで彼女は、指が2本折れた状態で/時速200キロで飛行する暴風に晒されながら/逆さまに外部突起を掴まって/30メートルくらい移動します。バケモンかな?

リプリーだって出来ねえよ!

 勿論、女性の活躍シーンが悪いとは言わない。けれど、この物語の発端は、「DV夫に耐えかねて」だった筈。ならばモードの握力×腕力×背筋力があれば、顔面ワンパンして「うるせえ」の一言で解決できるのでは?

 では寧ろ、モードの精神面はどうか?こっちも完璧。
 彼女が華憐な少女に見えるのは、猫を被った序盤まで。大空の修羅場を潜り素に戻って以降は、姉御キャラになります。ぐうの音も出ない正論で船長を論破し、抜群の実戦経験を見せ、それでいて気弱になる新兵を気遣う優しさまで見せる。知能・メンタル・社会性兼ね備えた万能人間なのです。これだけの超人なら、ダンナ一匹御すぐらい朝飯前でしょう。

 まあ…「そこはB級」「ポリコレも要素の一つ」くらいで流す映画ではあるのでしょう。寧ろ、(グレムリン目線で捉えるなら)「舐めてた人間美少女が殺人ママ・マシーンでした映画」、逆ナーメテ―タ―ジャンルとして観ると面白いかもしれません。

舐めてたクロエが吸血鬼でした

結びに

 では、どんな人にお勧めの映画か?B級好きは勿論、何といってもクロエ・モレッツ好きには堪らない一作でしょう。
 序・中盤は彼女の一人芝居で続くため、彼女の演技巧者ぶりが如何なく発揮されます。おどおどした少女で始まった筈なのに、女傑ぶりを発揮してからは佇まいが変わる。後半に至っては姉御…いや、クロエのオジキと呼びたくなる快男児ぶり。袖を千切って片肌脱ぎ、モリモリの上腕筋・三角筋を見せてチンコ怪人をシバき倒す。
 ラストは赤ん坊への授乳シーンで終わるんで、クロエの上乳を見たいマニアは直ぐに劇場へ駆けつけろ!



 なんか興が乗ったので、怪文書ラップ粗筋載せときます。

The period is in World War Two.
Women were drenched in crying dew.
No longer was she lady with fright.
Maude gets in the mode ready to fight.

時代は第二次 大戦下
危害厭わぬ 男の天下
痛み振り捨て 立ち向かえ
今に見せるぜ カリスマ性


頭韻、脚韻踏んで5・7調にすると、ラップじゃなくて都都逸だな……。

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