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【DESTINATION】プロローグ4 受け継がれし命


彗星すいせい

「彗星」は、太陽系にある天体の仲間。「尾」をもつのが特徴。

成分は80%が水(氷の状態)。このほか「岩石」「二酸化炭素」「一酸化炭素」「ガス」「微量のちり」。「イオンテイル」と呼ばれる尾は、それらが太陽の熱で暖められ、溶けて噴出したもの。

ティエラやほかの惑星とくらべると、かなり小さく、本体の大きさは数kmから数十km程度しかない。

天体は太陽を焦点とし、その周囲を楕円軌道だえんきどうを描きながら公転しているが「彗星」の場合は動きが異なる。

太陽の遠方から太陽系内部に近づき、太陽をかすめて遠ざかり消滅。これが「彗星」の基本的な動き。

「彗星の種類」

太陽への接近を何度も繰り返す「周期彗星しゅうきすいせい」と、一度だけ太陽に近づいて、そのまま太陽系の彼方かなたに消えていく「非周期彗星ひしゅうきすいせい」。

「彗星」にはこの2種類があり「周期彗星」のうち、太陽に近づく周期が200年以内のものを「短周期彗星たんしゅうきすいせい」、200年以上かかるものを「長周期彗星ちょうしゅうきすいせい」と呼ぶ。

また「彗星」はティエラから観測すると、長い尾を引きながら夜空に消えていくように見える。その姿から箒星ほうきぼしとの名ももつ。

流星群りゅうせいぐん

太陽を周回する彗星から飛散したちりが、ティエラの大気に飛び込み、夜空のある一点から放射状に飛び出して見える現象。

流星群の名前は、放射点に近い星座や恒星から命名。毎年ほぼ同時期に発生するもの、数10年、数100年に1度しか観測できないものがある。

まだ宇宙の仕組みを知らない時代、なんの前触れもなく夜空に出現し消えてゆく流星は、人々にとって恐怖の対象でしかなく、不吉の前兆「凶兆きょうちょうの星」といわれ恐れられてきた。 

「流星は悪魔を宿し地上に舞い降りる。星降る夜には惨劇が起こる」「ヒトは誰しも自分の星をもっており、死を迎えるころその星が落ちる」。当時の原人たちはそう考えていた。

「原人・エレクトス」を襲った事件。

それは180万年前、呪われし星座「屍座しかばねざ」近辺で発生した流星群「死屍座流星群ししざりゅうせいぐん」が見られた夜に起きた。奇しくも、迷信は現実のものとなる。

小さな集落で暮らす妊娠3ヶ月の若い女性。深い眠りについていた彼女は、腹部の激しい痛みに襲われ目を覚ます。

ヒトの妊娠期間は約280日(およそ10ヶ月)。ストレスや体調の影響で出産が早まることもあるが、3ヶ月で陣痛がくるのは明らかに異常。

すでに2度出産を経験していた彼女だったが、今までとは違う尋常ではない激痛に、のたうち回り狂ったように悲鳴をあげる。

波打ちながら急激に膨らむ女性の腹。腹の中から発せられる奇妙なうめき声、なにかを咀嚼そしゃくする音。

その様子を見守っていた夫と、ふたりの兄弟は信じがたい光景を目にした。

波打っていた女性の腹が左右に裂けた瞬間、全身を血で真っ赤に染めた、大きな赤ん坊が姿を現す。子宮からではなく、みずから腹を引き裂いて出てきた。

激痛の原因は、この赤ん坊が女性の臓器を喰いあさっていたこと。

暗闇のなか、赤ん坊は出血多量で死んだ母親の遺体を喰い、不気味な笑みを浮かべると、すぐ2本の足で立ちあがり、呆然とする夫と兄弟を喰らった。

そのあと、集落に30人ほどいたすべての原人のノド食いちぎって殺害。全員の肉を骨だけ残し喰らいつくした。

この悪魔は、ヒトと動物の肉を喰らいながら栄養を蓄え、みるみるうちに成長。身長は生後わずか4年で150cmを超え、強靭な肉体と凄まじい身体能力、高い知能、生殖機能を手に入れる。

仲間を増やすため、原人の女性を襲っては子を産ませるも、遺伝病いでんびょうや有害変異が起こり死産。母体が子の成長に耐えられず死亡するなどして、交配はなかなかうまくいかず。



凶人きょうじん・ディルタス」

──しかし、それから10年後。

エレクトスの女性を襲い、交配を続けていた悪魔の遺伝子は、原人の体で安定的に成長できるよう突然変異を起こす。それでも成功確率は、100人〜200人にひとりといったところ。

「悪魔の子」の子孫は年月を重ねるごとに、少しずつ数が増えていき、108人にまで増加。こうして史上最強の生物種「凶人きょうじん・ディルタス」が誕生した。

「ディルタス」は、ほかの生物より成長が異常に早く、胎内たいないで歯が生え、2ヶ月もすれば鋭い牙となる。

3ヶ月目には、その牙で女性の内臓を喰らい、腹を爪で引き裂いて体外に出て、死んだ親の肉を喰らい食欲を満たす。親を喰い終えると、次の食糧(ヒトか動物の肉)を求めて歩き始める。

成長すると肉体は鋼のように硬い筋肉で覆われ、ライオンやトラ、クマといった猛獣を素手で引き裂いて殺すほどの腕力を備える。

そのうえ身体能力も高く、世界最速の動物「チーター」よりも速く走り、捕らえて喰らう。脳も異常に発達。大きさは現代人と同程度。

産まれながらに強い闘争本能があり、好戦的で非常に凶暴。ありとあらゆる動植物(主に人肉)を食べ、食物連鎖の頂点に君臨。ディルタスは、その強大な力をつかって地域全土を支配していった。

そんな「ディルタス」の唯一の欠点は、生殖能力繁殖力が弱い点。

「エレクトス」と「ディルタス」の交配は、異種交配にあたり、これによって生まれた子どもは生殖能力を欠き、子孫を残せない。

異種間で交配すると、父方と母方から受け継いだ染色体の本数や構造が異なり、減数分裂に異常が生じる。このため、異なる種同士の交配では繁殖力のない子孫が産まれる。

また、ディルタス同士での交配は近親交配となってしまい、完全体の子を産むことはできない。

ディルタスを生み出せるのは、最初に現れた「悪魔の子」と「エレクトス」が交配した場合のみ。



「エレクトスのさらなる進化」

原人は危険な凶人から種を守るため、遠く離れた別の土地に移住。そこで交配を続けた原人は、さらに知力に優れた「新人・サイエレス」へと進化を遂げる。

「新人・サイエレス」

脳の容量は原人の約1.5倍となる1450ml。その発達した脳をつかって、より物事を複雑に考え、遠くからでも獲物を狙える道具、投げ槍(棒の先端に尖った石をつけたもの)を発明。

二足歩行を続けたことで、喉頭いんとうの位置が下がり、多様な音声の発声が可能となり、人類の存続につながる「言葉」を獲得。

コミュニケーション能力が促進され、狩りの際には「言葉」をあやつって意思疎通を図り、共同作業をおこなう。

弱いからこそ協力し、工夫を凝らし、知恵を出し合い、飢えや災害、寒さから身を守り、さまざまな環境変化に対応。そうすることで生存確率を高めた。

だが、生命の歴史である38億年の道のりは非常に過酷。いくつもの種が絶滅、またはその危機にひんしてきた。

「生命最大の危機」のひとつが、過去3度ティエラを襲った星がまるごと凍ってしまう「氷河期」。

極寒地域はもちろん、赤道付近の暑い地域でも大地が凍りついた。海は深さ2000mまで氷に覆われ、食糧がなくなり「猿人」「原人」の2種族と、そのほか多数の生物種が姿を消した。

無敵だと思われた「凶人きょうじん」も、飢えと寒さには勝てず、氷河に閉じ込められるなどして、このとき絶滅。

人類へと続く系統「新人・サイエレス」だけが、洞窟や地下で暖をとり、かろうじて生き残った。

海洋無酸素事変かいようむさんそじへん

だが、最も生命をおびやかしたのは、氷河期ではなく「海洋無酸素事変」。

「海洋無酸素事変」とは、海水中の酸素欠乏状態が広範囲に拡大し、海洋環境に大きな変化を引き起こす現象。

古生代や中生代にかけて定期的に起こり、海では数千万年ものあいだ無酸素状態が続き、陸上生物の68%、海洋生物は96%の種が絶滅。

それは6600万年前、白亜紀はくあきの終わりにティエラを襲った「隕石衝突」よりも、ずっと大規模に生物が死滅した大事件。

すなわち、ティエラの生物は直近6億年で、少なくとも5回大規模な絶滅を経験している。

人類を含む今を生きる生物種があるのは、壮絶な環境変化のなかを生き延び、懸命に命をつないだ者たちがいたおかげ。

現在、ティエラにはゾウのように大きなものから細菌のような小さなものまで、約3000万種の生命が暮らしており、それらは同じ種の生物でも、それぞれに個性があり、互いにつながりをもち、支え合いながら生きている。

この星のように多種多様な生物、美しい海と綺麗な空気をもつ星が生まれる確率は、果てしなく広がる宇宙のなかでも「ゼロに等しい」といわれている。


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