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子育ての隣に本① 発達っ子育児中のライターが『パパは脳研究者』を再読

初めまして。滋賀県在住のフリーライター、苗と申します。
2017年に40代で男の子を出産し、目下、子育てのまっただ中です。
現在6歳の息子は、来年の春から地元の小学校の特別支援学級に進みます。

その息子の子育てに、ずっと欠かせなかったのが「本」です。
発達の遅れがわかる前もわかった後も、子にとっても親にとっても。

息子が絵本や図鑑が好きなのはもちろん、私自身が本好き・調べ物好きなので、子育てや子どもの発達、暮らしに関する本をいろいろ手に取ってきました。

noteでは、ちょっぴりクセ強な息子の育児で読んだ本について、日記代わりに書いていきたいと思います。今後ともよろしくお願いします。


赤ちゃんが来た喜びと、発見の楽しさと。『パパは脳研究者』(池谷裕二)

息子が生まれたときから愛読していたのが『パパは脳研究者』(池谷裕二著、クレヨンハウス)です。

本書は、脳研究者の著者が、長女の誕生から彼女が4歳になるまでの間の出来事を記録したエッセーで、子育てエピソードを脳科学の観点から解説してくれています。

たとえば、乳幼児はなぜ眠いと不機嫌になってぐずるのかとか、子どもがなぜいとも簡単に「世界の国旗」を丸覚えできるのかとか。
乳幼児の子育てをしていると、子どもって不思議だなぁと感じる瞬間はたくさんありますが、本書では、その不思議を親しみやすい文体で解説してくれています。

あと、著者の池谷さんが父親として「子ども、面白い!!」と感動しているワクワクや、科学者として目の前に「最高の素材」がいる興奮がひしひしと伝わってくるところもすごく好きです。

いつの間にか〝違う読み方〟をする側になっていた

ところが、息子が2歳になり、イヤイヤ期を迎えたあたりから、私が本書から得ていた「楽しみ」は、徐々に「しんどさ」に変わっていきました。

本書は、著者の長女の誕生以後、数ヶ月ごとの成長が1つのエッセーとして記録されていくスタイルになっているので、読み進めていくと、娘さんが何歳何ヶ月の時点でどんな感じだったかがよくわかります。

最初のほうで紹介されているエピソードは息子の成長スピードとほぼ合致していたので、「あー、うちの子もそういうことするわ(笑)」といった感じで読んでいたのですが、2歳くらいを境に、そこに描かれている娘さんの発達具合と息子のそれとに大きなギャップを感じるようになりました。

「え? うちの子まだそんなことできてない」
「男の子と女の子では、成長スピードが違うのかな?」
「もしかして、池谷さんのお嬢さんって成長早い? やはりインテリの子は違うのか……」
などと、本書の主旨とは大きくズレた〝誤った読み方〟の見本みたいな感想をいつしか私は抱いていました。

多分、私のような人が一定数出てくるだろうことを、著者の池谷さんも編集者の方も想定していたに違いありません。
本書では随所に「あくまで個人の体験談なので、これが一般の子の成長だという意味で取らないでね。子どもの発達の早い遅いは人それぞれだからね」といったことが念押しされています。
にもかかわらず、多分、焦りとか不安で本来の主旨とはズレた感想を抱いていた。今思えば、その読み方こそがその後の伏線だったのかもしれません。

息子に感じた育てにくさは「気にしすぎ」じゃなかった

息子に発達の遅れの可能性があることを指摘されたのは、市の3歳6カ月児健診でのことでした。
「現段階では断定できないけど、今後お子さんの様子を見て、気になるところが出てきたら、市の相談機関に連絡してみては」と言われました。

確かに、イヤイヤ期が始まった頃から、息子に「育てにくさ」を感じることはしばしばありました。
もともと、制御不能な陽気な酔っぱらいみたいなところがあったうえ、イヤイヤ期とともに激しい癇癪がスタート(それが1回のことじゃなく、毎回)。あと、こちらの指示が妙に通らないなとも感じていました。
でも、「今だけのことかもしれない」「私の気にしすぎかも」と、だましだまし過ごしてきました。

健診での一件で妙に腑に落ち、その後、市の発達支援センターに相談したところ、息子が通っている保育園で発達検査をしてもらえる運びとなり、「全領域DQ80」という結果が出ました。
年相応の発達をしている子がDQ100なので、同年代の子たちよりやや発達が遅れているという感じ。認知能力に苦手さがあるということでした。

扶桑社文庫から出ている「新版」で再読。息子も私も、あの頃よりちょっと進んだ

その後も半年に一度くらい、発達支援センターの専門員が息子の通う保育園に出張してくれて、定期的に発達検査を受けられることになり、息子の成長を見守ってきました。
で、学校見学やら就学相談やらを重ねた結果、来年に控えた地元の公立小学校入学後は特別支援学級に進むことになりました。

そんな今、『パパは脳研究者』に加筆修正を加えた「新版」が扶桑社文庫から出ていることを知り、何年かぶりに再読してみました。

ちなみに、以前買ったクレヨンハウス刊行分は、息子が5歳くらいの頃に手放していました。
この本を締めくくる「マシュマロ・テスト」の話が、当時の私にとってつらすぎたからです。

ちなみにマシュマロ・テストとは、子どもの忍耐力や先を見越して行動する力などを試すためのもので、何もない部屋で、その子が好きなお菓子を目の前に置いて「15分以上食べずに我慢できれば、もう一つあげるよ」と言って一人にする。その状態で15分以上食べずにいられたら、ミッション・クリア!といった内容です。
このテストを4歳でクリアできた子の多くが、大人になってから社会的に成功を収めているという研究結果もあるらしく、本書は長女がみごとマシュマロ・テストに成功するエピソードで終わるのですが、息子の衝動性との闘いに負け続け、疲弊しきっていた私が見ている世界とはあまりにも違いすぎて……。「もう、わが家とは関係ない本だ」とさよならしたのでした。

で、再読してみた結果、面白さ8割、ほろ苦さ2割でした。
本書では全編にわたって「知性とは、優秀さとは何か」ということが書かれていて、そこが興味深くもあるのですが、一方で「優秀さ」のはるか手前で右往左往している身には、素直に楽しめない気持ちもまだ少し……という感じです。

ただ、新鮮な驚きもありました。
本書では長女の3歳5ヶ月のエピソードとして描かれている、前の晩に見た夢を「こんな夢を見た」と客観的に報告する話。もうすぐ6歳5ヶ月を迎える息子も、ようやくこういう伝え方をするようになってきました。
つまり、著者の長女とうちの息子との間には3年の開きがあるわけですが、それが悲しいというよりは、この本に何度も念押しされていた「発達のスピードは人それぞれ」って、まさにそうなんだなと納得しました。
ゆっくりだけど、ちゃんと進んでる。再読して、それを知れたことが嬉しかったです。

それから、扶桑社新書で新たに加わった「新書版のための追記」に、興味深い話が書かれていました。

ヒトの進化の過程から鑑みて、子どもは親よりもきょうだいや友達の言うことを重視するようにできているらしいです(たしかに、うちの子も友達と一緒に遊んでいるときが一番忍耐強いし、一番いきいきしています)。
だから、親として大切なのは、子どもにあれこれ教えることよりも、子どもにいい環境を与えてやることではないか、とも書かれていました。

奇しくも本書を再読した少し前に、わが家は息子の進級先として特別支援学級を選びました。この選択が息子にとって充実した学校生活を送るきっかけになるといいなと思っています。




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