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ああ、こんな僕でも君の役に立てれば、って本当に思うんだ

チームミーティング

いつものように和やかに進行していたけれど、うちが来春に出す予定の新商品の話題になった途端に、不穏な空気が流れ始める。

彼女がおそらく普段、抑えていた不満を爆発させたからだ。

「こんな社運をかけるような商品だったら、なおさらマネージャーが、ちゃんとその開発の経緯とか目的を部下にしっかり説明しないといけないはずですが、相変わらずそれはないですよね。でも、みんな、こんなの売れないなんて文句ばかり言うけど、もう引き戻せない以上は、私は全力でこの商品の良さにフォーカスを当ててアピールしますよ。」

これを聞いて、普段は彼女の能力を評価してへらへらと猫なで声を出しているチームマネージャーの彼は、自分(たち)が批判されたことに明らかにムッとしていた(ほんと、馬脚をすぐに表すタイプだよなあ・・・)

なんて他人事みたいに言っているけど、彼女の批判の矛先は僕にも向けられて、

「たいして商品のこと分かってないし知ろうともしてないのに、どうせ売れない、とか言わないでもらえますか。」

と言われたときは、確かにそのとおりだったから、本当にタジタジになってしまった。

結局、なんだかんだみんな大人ではあるので、その場は丸く収まったのだけど、ミーティングの後も、僕はずっと彼女に言われたこと、いや、彼女の主張の中に含まれる哀しみみたいなものが気になっていた。

なんとなく彼女がひとりぼっちのように思えたからだ。

だから、僕はその後の勤務時間の大半を、グーグル先生を使って、その悪評名高い新商品に関連する情報を調べることに費やした。

案の定、日本語ではたいした情報は得られなかったけど、英語で調べると、僕が想像していた以上に色々と面白い情報が出てきた。

お〜、これは、ひょっしたら、ひょっとするかもよ

そして、就業間際に、彼女に話しかけた。

「たいして知りもしないのにあの商品のこと悪く言ってばかりでごめんね。あの後、ちょっと反省して、色々調べたら、なんかイケそうな感じがしてきたから、また改めてちゃんとまとめて報告するわ。」

すると、彼女の顔は、あのミーティングのときとは一転して、とても優しい表情になった。いや、明らかに嬉しそうだったし、すんごく饒舌に自分の想いを吐露してくれた。

細かい話はともかく、そんな彼女の話を聞きながら、彼女には職業人としてのある種の哲学というか美学があることに改めて気がついた。

それは、

どんなに厳しい状況だとしても、たやすく他人や環境のせいにしたりせずに、たとえどんなに自分が無力だと思っても、悔いのないように自分なりに全力を尽くす

というもの


だと思った。

そして、それはとてもカッコいいことだと素直に思えたから、僕もそうなりたいと思ったし、それ以上に、こんな僕でも、そんな彼女のお役に立ちたいって心から思えたんだ。

そう言えば、先日、たまたま彼女と二人きりで話していたときに、

「あなたが傷ついている姿を見ていて、いつもそこまでしなくていいのになあ、ってハラハラしながら見てるのよ。」

と言われてすんごくビックリしたことを思い出した。

「この人、なんで分かるんだ?」

ってね。

でも、今ならその理由もよく分かる。

彼女も僕と同類というか、いや僕以上に責任感が強くていろいろと見えてしまう人だから、仕事をしながら今までたくさん傷ついてきたんだろうな、ってね。

だから、改めてここに誓うよ。

少しでも君のその強いまなざしの裏に潜む孤独や哀しみが薄れるように、僕は僕で全力を尽くすよ。


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