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ボクたちが自信を持って言えること

いつも通り、21時過ぎに僕は二人より先に自分の寝室に入ったのだけど、しばらくしたら台所から妻の語気を荒げた声が聞こえてきた。

少し様子を伺っていたのだけど、一向に息子の声が聞こえてこないから、これはマズイと思って、彼がいるはずのリビングに向かった。

そしたら、じっーと下を向いて直立不動で必死に何かに耐えているような息子の姿があった。

その彼に向かって、妻がまた声を荒げる。

どうやら今週の学校に行く日を決めかねている息子の優柔不断さにイライラが爆発してしまったようだ。

「あなたに合わせて生活するの、お母さん、本当にもう疲れたわ」

妻の気持ちももちろん分かるけれど、ああ、これはキツイ一言だろうな、と思ったら、案の定、息子はその場にうずくまって、うげっーと言って吐き始めた。

そして、その格好のまま

「僕が悪い子でごめんね。学校も行けなくて勉強もしなくてごめんね。」

と泣きじゃくり始めた。

さすがに妻もそんな息子の姿を見てハッと我に返ったのか、慌てて彼のそばに駆け寄って

「お母さん、今ひどいこと言ったね。本当にごめんね。むしろ◯◯がお母さんに合わせてくれているのにね。」

「◯◯は悪い子じゃないよ。いい子だよ。」

と背中をさすりながら、すっかり優しくなったいつもの声で話しかけていた。

すると、息子も少し落ち着いた様子を見せ始めたから、僕は何も言わずに立ち去ろうかと思ったけれど、少しだけこんなことを話してみた。

「家族だから、みんな相手に合わせて生きてるのは当たり前の話なんだよ。お母さんだけじゃない。◯◯だけじゃない。みんなそうなんだよ。」

「お母さんと同じでお父さんも◯◯はいい子だとは思っているけど、だからといって僕らのためにいい子になんてならなくて全然いいんだよ。悪い子だなんて思う必要も全くない。そのままの◯◯がお父さんもお母さんも大好きなんだから。」

正直、彼に聞こえているかどうかはよく分からなかったけど、ひとまず言いたいことが言えて満足した僕は、そのままひとり寝室に戻っていった。

それからほどなくして、遠くから二人の笑い声が聞こえてきた。

ホッ! どうやら仲直りできたみたいだ。

それから10分くらい経った頃だろうか。

突然、寝室のドアが開いたので、すぐに顔を上げると、そこには少しバツの悪そうな表情を浮かべた息子が立っていた。

そして、

「お母さんとちゃんと仲直りしたよ」

と報告してくれたのだった。

どうやら少なくとも僕があの場にいたことは認識してくれていたようだ(笑)

「うん、それはよかった。これでお父さんも安心して眠れるよ。おやすみ。」

「うん。おやすみ!」

しかし、それにしても世の中、本当にうまく行かないことばかりだよね。

自分の子供だろうが親だろうが上司だろうが部下だろうが誰も自分の思い通りになんかなってくれない。

というか、お父さんに至っては、自分自身すらたまに制御不能になる(苦笑)

でも、だからこそ僕らの人生ってこんなにも味わい深くて奥深いものなんだって、聡明な君ならきっとすでに分かってるはずだろうけど。

そして、もうひとつ自明の理のことがある。

それは、こんな風にたまにかんしゃくを起こすこともあるけれど、

僕もお母さんも君のことを嫌いになったりすることなんか絶対にないってことだ。

だから今夜もどうか安心してぐっすり眠ってね。

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