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アナザーデイ in 下北沢



一昨日、ふらりと訪れた神保町で手に入れた森泉岳土の古本。

以前から気になっていた漫画家のその短編集の中で、特に気にいったのが、下北沢で同棲中の若いカップルの話。

彼氏がプロポーズして彼女がOKして、彼女の実家に一緒にあいさつに行って、両親も彼のことを気に入って…とすべてがトントン拍子に進んで特に波乱万丈の展開は起きないんだけど、それが逆に心地よかったし、何より二人が羨ましくて仕方がなかった。

だって、下北沢で彼女と一緒に暮らせるなんて、まさに夢みたいな話ジャマイカ🇯🇲

というくらいには、あの街はなせだかよく分からないけど、僕にとってスペシャルな街なのである。

だから、今の生活に不満なんて何一つないけれど、だからこそ、もうひとつのもしかしたらあったかもしれないアナザーストーリーを自由気ままに妄想する自分がいる。

そのアナザワールドで僕は都内の大学に通うために上京してきて以来、ずっと下北沢に居を構えている。仕事は、今よりも少しカルチャー寄りの仕事をしていて、薄給ながらも、毎日を忙しくも楽しく過ごしている。

何しろどんなに疲れて帰っても、あの街がいつものようににぎやかな顔をして僕を待っていてくれているのだから。

そんな僕の一番の贅沢は、学生時代、文化系のサークル(映画か漫画などポップカルチャー系の)で知り合った妻と、夜の下北沢をナイトクルージングすることだ。

仕事帰り、小田急線の改札前で待ち合わせた二人は、若者たちでごった返す商店街の街灯やネオンをすいすいとすり抜けて、と思ったら、結局、その間に見つけた気になるお店の一つに吸い込まれて、そこで、少しアルコールを補給しながら、仕事やら人生やらアートやらいろんな話に花を咲かせる。お互いにヒートアップしすぎて不穏な空気になっても、そんなときは店を出ればいいだけの話だ。

そして、いつものように、街中から少し離れた人がほとんどいない住宅街沿いの長い散歩道を月を見ながら歩けば、いつしか自然と手を繋いでいる二人に気が付くだろう。

そして、最後に一日の締めくくりとして訪れた行きつけの古本屋で、以前から気になっていた作家さんの漫画本を見つけた僕らは、小さなページを2人で覗き込むために頭をくっつけながら、こんなことを言い合うんだ。  

「このふたりなんだか微笑ましいよね」

「うん、なんだかまるで僕たちみたいなふたりだね」

そんなアナザデイ イン 下北沢。

妄想なのにやけにリアルに感じるのは、やはり僕のこの街への思い入れの強さゆえだろう。少なくとも「下北以上原宿未満」と歌った藤井フミヤよりは好きなことは間違いない。というか、なんやねん、下北以上原宿未満って…。

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