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クワイエットルームへようこそ

土曜日の午後の昼下がり。

馬喰町の古いビルヂングの2階にあるカフェの窓際、角の席に一人座り、僕はぐるりと室内全体を見渡す。

僕と同じ窓際の二人がけテーブルには、まるで映画のワンシーンみたいにとても絵になる女の子がひとり静かにコーヒーを飲みながら考え事をしている。

彼女の着ている灰色の生地に小さな赤い花柄の刺繍があしらわれたワンピースは、おそらくミナペルホネンのものだろう。

その奥の4人がけの大きめなテーブルには、若いカップルが何やら楽しそうに話し込んでいる。

黒いトレーナーを着た男の子の耳たぶには銀色の細いヒモ状のピアスがぶら下がっていて、彼が笑うたびにゆらゆら揺れている。

そして、僕の右隣の壁際の席には、白いカレッジトレーナー姿のボーイッシュな感じの女の子が何度も首をかしげながら手紙を書いている。

今のところ、僕以外のお客さんはこの4名。

4人の共通点はみんな静かで、落ち着いているところだ。

そして、みな同じ空間にいながらも、ちゃんとそれぞれが思い思いの自分時間をしっかりと味わおうとしているのがひしひしと伝わってくる。

だから僕も彼らにならって、改めて椅子にもたれかかりながら、この上質なクワイエットルームに心と体ごとダイブした。

とにかく今は何も考えたくなかったから、スマホはカバンにしまい、いつもは忙しなく動き続けている自分の脳みその電源もオフにする。

なんだか思っていた以上に、自分がホッとして、癒やされていることに気づく。

店内には、先ほどからささやくような音量で男性が歌うゴスペルが流れている。

「なにも考えないというのは、こんなにも心地よいことなんだなあ…。」

と僕は独りごちる。

もちろん僕の目の前には相変わらず問題が山積みだし、それと悪戦苦闘するために、せわしなく足りない頭をフル回転させることが、つまるところ、僕にとっての

生きること

なのは間違いないが、これからたまにクワイエットルームに僕がお世話になることはどうやら確定事項になった模様だ。

デザート(いちぢくのパンナコッタ)も美味でした


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