カフェと友達
突然ですが、約15年前に書いたどこに出す当てもなかった、埃をかぶった雑文を転載してみる。内容以上に、草食系男子とかの単語が時代を感じさせて笑えますな(笑)
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僕の大学時代からの友人の一人におしゃれなカフェや美術館が好きなヤツがいる。そんな男性はスイーツ男子や草食系男子なんて言葉が世間をにぎわす現代においてさほど珍しくないと思われるだろうが、本人を目の前にすれば、その考えの甘さに否応なく気づくだろう。
それくらい彼はカフェとは対極にあるキャラクターなのだ。といっても、いわゆるアキバ系などというわけではなく、ルックス的にはおしゃれ成層圏内でも十分、通用するタイプだと思う。
彼の問題はそんな表層的な事よりももっと深刻で根が深い。すなわち彼の生き様、人生観そのものがカフェ的なものとはおよそ正反対に位置しているのだ。
ちなみにそんな彼の現在の仕事は、いわゆる裏稼業の代名詞
借金の取り立て
である。
アパート、マンションの家賃を長期滞納した挙句に夜逃げした住人たちを追っかけって、彼は今日もまた全国津々浦々をかけ巡っていることだろう。
そして、そんな風に日々、人間のダークサイドとガチンコで向き合っている彼の話は常にその貴重な経験に裏打ちされた徹底したリアリズム
すなわち
人間とは基本的にろくでなしである
という考えに貫かれている。
そして、実際、彼の話には、聞く側の体調が悪いと本気で吐き気を催すほどのろくでなし共のエピソードが満載なのである。
そして、そんな彼が唯一、羽根を休めて、ホッと一息つける場所がおしゃれなカフェなのだ。こう書くと、彼ほど安らぎの場としてのカフェを必要としている人はいないと皆、納得するに違いない。
実際、私も表参道や自由が丘のカフェで、彼の本当に心の底から安らいでいる表情を何度となく見てきた。
ただ問題なのは、そんなおしゃれなカフェでも彼の会話の内容の濃さが一切、変わらない点だ。誰もがくつろぎながら、良くも悪くも毒にも薬にもならない他愛のない会話に興じている中で、彼と僕のいるテーブルだけ
「この前、夜逃げした住人の部屋にも注射器と白い粉が残っててさ~。」
とか
「また床が血だらけだったよ〜。」
とか
不穏極まりない会話が交わされているのだから場違いなことこの上なし。心なしか、いや間違いなく店員さんや周囲のお客さんからの冷たい視線を感じる。
しかし、まったく悪びれる様子もなく屈託なく話している彼の姿を見ていると、話の腰を折るのも何だか忍びない。そう、だって彼はきっと今ここにいる他の誰よりもこの場所で自らの心の洗濯を必要としている人間なのだからして・・・。
というわけで、金払っているのだから別に何しゃべっても良いじゃん、と最近では付き合う僕も完全に開き直っている始末・・。
最後に全国のおしゃれカフェオーナーの皆様、あなたのお店にもいつか彼と二人でお邪魔するかもしれません。悪気はもちろんないですが、どうか覚悟しておいてくださいね。
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