出来損ないのカメレオンとほのぼの家族
土曜の昼過ぎ
息子に「今からゼルダやるから、お父さん隣で見ててね」
と言われて、「うん」と答えた直後に睡魔が襲って、結局、夕方まで爆睡してしまった。
目が覚めた瞬間、慌てて
「ごめん、お父さん、疲れてて寝てもうてたわ〜。」
と謝ると、
息子は
「え〜ん、嘘つき!」
と泣き真似をしたあと、こんな知られざる事実を教えてくれた。
「お父さん、僕が話しかけるたびに、毎回、うんと言って一瞬だけ目を開けて、またすぐ寝てたよ。ある意味、すごい能力だね。」
ああ、確かになんとなくぼんやりゼルダの画面を思い出してきた(笑)
PM5:20
家族3人で外食をしに外に出かける。
春だというのにまだ肌寒い外気に触れて少し目が覚めた僕の口から、我ながら率直すぎる本音が漏れた。
「ああ、今回ばかりはたぶん一人だったら死んでたわ。家族がいてくれて本当によかった。」
それくらいこの世界にはもはや僕みたいな人間は必要ないんだ、って本気で思ってしまっていたから。
すると、それを聞いた妻がすかさず
「じゃあ、いっそのこと私が今からひと思いに!」
と言いながら、僕の脇腹をエアーナイフで突き刺し始めた。ご丁寧にスチャスチャという効果音付きで。
そんな彼女の予想外のリアクションに思わず僕は「ぷっ!」と吹き出してしまう。
さらに追い打ちをかけるように妻が息子に向かって
「弱っている人にトドメを指すのが、お母さんの趣味なのよ。」
なんて話しかけるから、僕も息子もたまらず
ゲラゲラと大爆笑してしまった。
実は昨晩から20代の頃の僕のテーマソングだったあの曲の歌詞の一節がずっと僕の頭の中をリピートしていた。
"たとえ世界がデタラメでタネも仕掛けもあって生まれたままの色じゃもうダメだって気づいても…。"
"もしも全てが嘘でただ辻褄合わせで、いつかなついていた猫はただお腹空かしていただけで…。"
ってヤツね。
うん、確かに僕はあの頃と変わらず、いまだに
まわりの色になじめない出来損ないの
ストレンジカメレオン
なのかもしれない。
むしろ自分のトゲトゲの尻尾で出来た引っかき傷はあの頃と比べものにならないくらい増えてしまった…。
バスに乗って、この前、散髪屋の兄ちゃんに教えてもらったお店で、みんなと一緒に僕のソウルフードを食べる。
PM7:10
お店を出てふと空を見上げると、夜空には自分の膨れたお腹とおんなじくらいまんまるなお月さんが浮かんでいた。
ボッーとその月を眺めていた僕に息子が話しかけてくる。
「帰ったらまたゼルダやるからね!」
ああ、よっぽど僕に見て欲しかったのね(笑)
別に特別なことなんて何一つ起きなかったいつもの休日だったけれど、気づいたら、またいつものように、うつむいていた顔を上に上げている自分がいた。
そして、
「なんだかんだ言いながら、このおいぼれストレンジカメレオンはこの調子でしぶとく生き抜いていくんだろうな。」
と思って、ようやくちょっと泣けた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?