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ズレてる人

時々、自分の感覚が、世間一般のそれとは大きくズレてることに否応なく気付かされてしまうことがある。

例えば、僕は自分のことをまだまだ伸び代だらけのヒヨッコだと信じて疑わないのだけど、世間の人から見たら、それこそ棺桶に片足を突っ込んだ前期高齢者に見られているんだなあってことを先日もつくづく痛感させられてしまったばかりだし。

まあ、そりゃあそーだよなあ。

あとは、僕が世のため人のためにと思ってこれまで頑張ってきたことが、どうやらどれもこれも全て余計なお世話以外の何物でもなかったことも、先日、見事に証明されたばかりだ。

まあ、そりゃあそーだよなあ。

でも、この正真正銘のバカは、それでもそんなズレた自分を軌道修正つもりは毛頭なくて、でも、ちょっと疲れたから、ただ少しだけ羽根を休めようという気持ちになっているだけである。

どうやらこいつは死ぬ直前まで働き続けるつもりらしいから、そりぁインターバルはこまめに取っておかなきゃいけないだろうしね。

とにかく今は、鍼の先生から言われている、僕の体の不調の原因である

気働き

というヤツを減らすことに集中しないとな。

そのためにも、色々頑張りすぎちゃう自分はちょっとお休みしようと思う。

それが、この5年間ずっと追いかけ続けていた自分の夢の一つを諦めることに繋がるとしても。

けど、気持ちは思ってたほどブルーじゃないのは、

これはあくまで戦略的撤退だと自分でもちゃんと理解しているからだ。

まあ、そうは言っても、時々、そんな自分の不甲斐なさに無性に胸を掻きむしりたくなる夜があるのもまた人情なのであった。

だから、こんな気分のときは、まさにズレの権化とも呼ぶべき彼のことを思い出して、自己肯定感を高めることに努めよう。

で、その彼とは6回戦ボーイ止まりで引退した元プロボクサーの堀口さんのことだ。

才能やセンスはピカイチだったけれど、ムラっ気のある性格のせいでボクサーとしては大成できなかった堀口さん。

でも、愛する亡き妻の忘れ形見の息子さんのために一念発起して、またプロのボクサーとして復帰することを決意したのだった。

ちなみにこのときの彼の年齢は30代後半。ボクサーとしての賞味期限はとっくに過ぎていた。

そして、こんなロートルボクサーと契約する物好きなジムなんてどこにもなかったから、堀口さんは、息子さんと2人で、ロードワークと称した全国放浪の旅に出る。

その父と子2人きりのリングもサンドバッグもトレッドミルも何もない、もっぱら神社の境内や原っぱが舞台のチョー原始的なトレーニング?に明け暮れる日々は、そのときの2人は気づきもしなかったけど、文字通り堀口さんとジュニアの

ゴールデンエイジ

となったのだった。

その後、いくつもの偶然が重なって、彼は奇跡的に再びプロボクサーとしてデビューできることになる。

しかも、将来の世界チャンピオンと目されるほどの天才若手ボクサーとのマッチメイクというビッグなおまけ付きで。

でも、その奇跡は、賢い大人たちによるちゃんと種も仕掛けもあるものだった。

そう、決して彼のボクサーとしての実力やそれまでの血の滲むような努力が認められたわけじゃなくて、堀口さんは、あくまで

愛する息子の期待に応えるために、未来の世界チャンピオン候補の天才若手ボクサーに無謀にも立ち向かうとっくに峠を過ぎた下り坂の年寄りボクサー

という興行的成功が約束された三文芝居の出演者として担がれた噛ませ犬に過ぎなかったのだ。

もちろん彼もそんな大人の事情は承知していた。

それでも、どうせ勝てっこない相手だとしても、逃げずに全力で立ち向かい、自分の持っている力の全てを出し切ってリングの上に華麗に散ったならば、たとえ彼が望んでいた世界チャンピョンになれなくても、息子はきっとそんな自分の姿を見て何かを学んでくれるに違いない。

そして、試合が終わったら、ずっと自分の練習に付き合わせてばかりで、子どもらしい遊びをさせてあげられなかった彼のために、一緒に遊園地に行こうと堀口さんは息子さんに約束したのだった。

でも、試合前に、対戦相手の天才ボクサーに挨拶に行った息子さんが、その彼に父親(自分)のことをさんざんバカにされた挙句に殴られたという事実を知った瞬間、彼はプッツンしてしまう。

周りの誰一人として、いや何より自分自身が世界チャンピオンになれるなんて全く信じてもいなかった。

にも関わらず、おまえだけは、そんな俺のことを世界チャンピオンになれるってずっと信じてくれていたんだよな。

それなのに、そんな自慢のお父さんのことをコケにされて、おまえはどれほど悔しかっただろう…。

ぐぅおおおおー!

絶対に俺は世界チャンピオンになってやる!

というわけで、史上最悪レベルの大馬鹿ズレまくり野郎がここに爆誕した。

そして、そんな頭のネジが何本か抜けた彼の向こう見ずで命知らずな猛ラッシュにさすがの天才ボクサーも一時は怯んだけれども、月とスッポンほどもある両者の実力差は埋められるわけもなく、結局、善戦むなしく堀口さんはKO負けを喫してしまう。

それどころか、頭の打ちどころが悪くて一度は意識不明になった体を押して、その晩、息子さんとの約束を果たすために行った夜の遊園地のベンチの上で彼はあっけなく死んでしまうのだった。

その時の息子さんの姿を見たとき、本当に堀口さんは、とんでもない大馬鹿野郎だと思ったよ。

だって、息子さんは、世界チャンピオンになんかなれなくても、貧乏で無精髭を伸ばしてなんだか小汚いいつものお父さんのことが大好きで大好きで仕方なくて、ただ二人で世界ちゃんぴょんの夢を一緒に見ながら、野原を駆け回ったり、シャドーボクシングするのが何よりも楽しかっただけなのだから。

それなのに、そんなあんたが死んでどーすんだよ!!!

愛する息子さんをひとりぼっちにしてどーすんだよ!!!

けど、そんな風に激しくズレまくっているからこその堀口さんだし、そんな堀口さんだからこそ、息子さんもあれほどお父さんのことが大好きだったことももちろん分かっている。

分かってはいる、だけど、だけど…。

この幕引きだけはたぶん正解じゃなかった

ってどうしても思ってしまうんだよなあ。

だから、そんな僕はあなたと同じ轍は踏まないってさっき心に誓ったよ。

まぁ、あなたと違って、僕の夢は息子さんの夢ではなくて、あくまで自分のエゴイスティックな夢に過ぎないから、諦めるのも簡単だったかもしれないけど。

そんなくだらない夢なんぞマレーバクにでも喰わせてやって、それこそ

「お父さん、そろそろ死んでもいい頃なんじゃない?」

って息子に促されるくらいまで絶対に長生きしてやるのだ。

だから、そのためにも、これからちょっくら休憩タイムに入ることにするよ・・。

どうやら、ちょっと老体にムチ打ちすぎたようだしね。

とりあえず久しぶりに出来た暇な時間にはchat GPTをオモチャにして遊んでみようかなあ、などと思っている。
本当にSF小説の中の人みたいな気持ちに浸れるからね。




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