冬だなっ!
今年の冬もどうやらあんまり寒くなさそうだなあ
となんとなくすでに物足りなさを感じている今日この頃。
寒いのはもちろん苦手だけれど、せっかく四季がある国なのだから、どうせならモコモコの耳当てが欠かせなかった少年時代のように皮膚をヒリヒリと突き刺さすような寒さをたまには体感したいものだ、なんてことを思うのは贅沢な悩みなのだろうか。
そう言えば、自分が冬の寒さを最後にしっかりと体感したのはいつだっただろう。
と考えたときに、明確に、ある情景が僕の脳裏に浮かんできた。
それは今から8年前の師走のある日のこと。
その日は、その年に仕事でかなりお世話になった女性デザイナーと忘年会という名目でサシ飲みする日だった。
確か渋谷か恵比寿で一次会をした後、まだ飲み足りない、というか、話し足りないと思った僕らは、彼女の自宅のある西荻窪に向かい、彼女が行きつけの小さなスナックみたいなバーみたいなお店で飲み直したのだった。
これまでも仕事で知り合った若い女性と2人きりで飲むことはあったけど、彼女たちが住んでいる家の近くで飲むことはなかった。
それは、そんなつもりも勇気もさらさらなかったけど、お酒の勢いで自分が送り狼になってしまうことをどこかで恐れていたから、なのかもしれない。
しかし、その日はなぜこういう展開になってしまったかと言うと、ぶっちゃっけ、僕が彼女のことを異性としてまったく意識してなかったからだ。
と、どさくさにまぎれてひどいことを言ったけど、それは実はお互い様で、僕もまた彼女にとって異性としては完全にアウトオブ眼中だったのは普段の彼女の態度からよく理解していた。
そんな似たもの同士の安心な僕らは、彼女がお気に入りの、今では、やけに暗いなあ、という印象しか残ってないそのお店で、時が過ぎるのを忘れるくらい、とことん話し込んだのだった。
まあすでにふたりともかなりいい感じに仕上がっていたから、もちろん何を話したかなんてほとんど覚えてないけれど。
ただ彼女がバルセロナのサクラダファミリアをはじめとするガウディの建築物が大好きで、数年前に旅行で現地に赴いたときに撮った写真を見せながら、その魅力を熱烈に語ってくれたことだけは鮮明に覚えている。
そのときの彼女は、あの柴犬みたいなつぶらな瞳がやけにキラキラと輝やいていて、その姿を見た僕は不覚にも胸がドギマギしてしまったのだった。
やがて閉店時間を迎え、半ばマスターに追い出されるような形で、二人は店を出た。
「雪が降っていますね」
と彼女が言った。
終電はとっくになくなっていたから、その彼女に向かって僕は
「じゃあ、どうか良いお年を!」
と一言だけ告げて、一人で元来た道を歩き出した。
まあ帰り道はよく分からないけど、自宅は中央線の西の端だから西の方を目指せば、そのうちたどり着くだろう。
雪が降りしきる深夜の人っこひとりいない東京の街は、想像以上に寒くて、さっきから冷気が容赦なく頬を突き刺してくる。
けれど、そんなことなどお構いなしに、街灯に青白く照らされたアスファルトの道をガシガシと力強く踏みしめながら僕はその夜の行軍を続けた。
冬だな
と思った。
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