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散る散る、満ちる

日曜日、昆虫の標本作りのために、息子と一緒に千駄木に出かけた。

駅から目的地まで20分くらいあったから、久しぶり父と息子二人きりゆったり会話ができた。

どーゆー経緯か忘れちゃったけど、まず僕が平家が権力を握って、源氏がそれを滅ぼして鎌倉幕府を作る歴史の話をした。

きっと心のどこかで学校に満足に通えてない息子に対してそろそろ社会とか歴史とかに興味を持ってほしいというスケベ心があったんだと思う。

でも、息子の反応は思っていた以上に鈍くて、というか、僕自身、血で血を洗うような権力闘争の話をしていたら、どんどん気持ちがドヨーンとしてきた(苦笑)

すると、ここで攻守が切り替わって、今度は息子が自分の専門領域の昆虫の話をしてくれた。

忘れっぽい僕だから、具体的な話はすっかり忘れてしまったけれど、彼の話から、昆虫を含めた自然の生態系の持つ無駄のなさや誰ひとり仲間外れにせずに取りこぼさない感じがとても美しいと思った。

そして、勉強が大嫌いな(特に国語とか社会)息子がなぜこんなにも昆虫に夢中になるのか、その理由の一端が分かったような気がした。

そんな彼が昆虫を始めとする人間以外の生き物と人間の違いについて説明していた内容がなるほど!と思わせるものだったから、最後にその話を紹介したい。

「昆虫たちはその進化の過程で自分自身の体を強くしたり、生存能力を高めてきたけど、それに対して人間は道具を作ることで生き延びてきたと思うんだ」

「つまり、人間はずっと自分の外側を強くしてきたわけだけど、その結果、自分自身の生存能力はどんどん弱くなっていると思うんだよね」

「だから、電気やインターネットや電車などが止まったり動かなくなってしまったら、ほとんどの人間は死んでしまうんじゃないかなあ」

「だから、そうならないために僕はサバイバル能力を鍛えて、いつか見えないパンチを繰り出せるブルースリーみたいになるんだ。アチョー!」

最後の一言が急に子どもらしくなって思わず笑ってしまったけれど、この彼の話を聞いて僕の頭の中には、自然と

こんなディストピア、いやユートピア

の映像が思い浮かんだのだった。

時は20XX年

AIの反乱に合い、あらゆるライフラインを完全に断たれた人間はわずか数ヶ月で絶滅し、その結果、また人間が生まれる前の

多様な生き物が共存し調和して生きる

SDGsな世界

が蘇ったのだった。

そして、人間の叡智の結晶であるA Iは、その人間が破壊してきた自然の修復に尽力し、やがて


鬱蒼と生い茂った緑と透明な青をたたえた海のコントラストが眩しい

太陽系でもっとも美しい惑星

地球

が完全復活したのだった。

そう、かつてこの星には僕たち、愛というよく分からないものを信じていた人間という風変わりな生き物が住んでいたという痕跡など跡形も残らないくらいに、ね。

でも、彼らが信じていた愛は、AIにカタチを変えて、今もそんな地球を優しく見守っているのだった。


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