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小林秀雄の「人生」論 浜崎洋介:著

文字通り小林秀雄の生き方を追体験できる本。前半が面白く、後半が凡庸に感じてしまうのは、作者の問題でなく小林秀雄の生き方のせいであろう。そういう意味では、私には吉本隆明の小林秀雄評がしっくりくる。

しかし、わたしの聞きたかった声の半分は充たされなかった。戦争とはなにか、敗戦とはなにか、これから生きてゆくとは何かについてもはや小林秀雄からなにももとめえないのを知らねばならなかった。(中略)このことは、かれが戦後、文壇をすてて社会的視野の外にでたのとふかくつながっているようにおもえる。

戦中から小林秀雄は批評の世界から遠ざかり、伝統とか美とかの世界に入り込んで行ったという。それをもって吉本隆明は社会的視野の外に出たと表現したと思うが、なぜ、現実を放棄したのだろうか?多分そこには彼の中の連続性、継続性を重視する考えが関係しているのではないか。戦後、戦時中の行いをまるでなかったかのように脇に置いて批評することなど出来なかったのだろう。本書は小林秀雄を語る上でのキーワードを「直観」と定義している。日本人とは何かその問いの答えは立場主義の中にはなく、ひとえに自らの直関係の中にあるというのが小林秀雄の出発点であるという。今の社会を考えて見ると、いまだにそれが全くできていないのが日本人という人々なのかもしれない。

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