銭湯

4月16日、都内に引っ越した。
ガス開栓の申し込みをしたが、引っ越しシーズンだったこともあり、すぐに来てもらえる事は出来ず4日間くらい銭湯に通う事になった。

幸い歩いて5分くらいの所に銭湯があった。
知らない街というのは歩いているだけでもワクワクする。
この通りは街の景観を守るために似たような家が並んでいるのかな、とかインドカレー屋さんを見つけてお持ち帰りだとカレーとナンがセットで500円!?安っ!!とか、この辺りのスーパーで一番安い所は何処だろう、と思ったり、考え事は尽きない。

気の利いた袋がないので、ビニール袋にタオルと全身用シャンプー(頭から足のつま先まで洗えるやつ。髪と体の香りが統一されて良い◎)、メイク落としを入れてきた。
銭湯でも買えるのだけど、しばらくは貯金が減る事は確実なので、節約出来る時は節約しようと思った。
 
どうやら券売機でチケットを買うシステムらしい。
サウナは入らないので、入浴券520円を購入した。
フロントのおばさんにチケットを渡し、女湯の脱衣場に行くと、すっぽんぽんになってブツブツ独り言を言っているお婆ちゃんがいて緊張が走った。
電車に乗っている時にどう見ても変なヤツが入ってきて車両全体がピリリとなるあの感覚と一緒だ。
背後を気にしながら入浴の準備をしていると、ロッカーの間にちょうど顔くらいの高さの小窓がある事に気付いた。『ご用のある方はこちらから』と書いてあり、脱いだ後でもフロントに用事がある場合はそこから話が出来るシステムらしい。

私が勝手に心配していたお婆ちゃんが「すいませーん」と言いながら、小窓ではなくカーテンを潜ってフロントに行った。
「「「え!?」」」と思った。
フロントの方はもっと「「「え!?」」」となったと思う。「裸で出て来ないで下さい!」と懸命に訴えていた。お婆ちゃんは気にする事無くご用を伝えていた。
しばらくするとフロントのおばさんがそのお婆ちゃんの手を引いて戻ってきた。

「こちらに小窓があるんで、こっから話掛けて下さい💢」
フロントのおばさんが訴える中お婆ちゃんは無視して自分の荷物をロッカーに閉まった。
その光景を見て私はさらに緊張した。
無理もないが、フロントのおばさんがブチ切れている。
「ちょっと?聞いてます?💢」
お婆ちゃんはまたもや聞こえていない様子。
「ちょっと?💢」
ドスの利いた声だ。
フロントのおばさんは強引にお婆ちゃんの手を取り、小窓に案内し、フロントに戻った。

衝撃的な一部始終を目の当たりにし、冷や汗を掻いた私は綺麗に体を洗い流す事にした。