濡れタバコの連絡ノート第三回 「我が国自衛隊批判の論点の正しさ」

 濡れタバコの連絡ノート第三回は趣向を変えてあえて賛否両論あろうテーマを取り上げてみる。それは我が国自衛隊批判の論点の正しさだ。

 2022年の2月に突如として勃発したロシアによるウクライナ侵攻。これを皮切りに元自衛隊幹部や元外務官僚や軍事評論家がコメンテーターとしてお茶の間に姿を見せるようになり連日ネットニュースでは我が国の自衛隊の状況について論じる記事がデスクトップを踊るようになった。ヨーロッパ(と言い切って良いのかわからないが彼らがヨーロッパ人を名乗っているのだからそうなのだろう)と言えども我が国と国境を接するロシアが他国に戦争を仕掛けたのだ。センセーショナルに騒ぎ立てるのも無理はない。しかし、ここで気になるのはその中身だ。ここでは、いくつかの記事を見てその内容の正しさについて考えてみよう。

 まず、この手のニュース記事でよく槍玉に挙げられるのが、陸上自衛隊批判だ。特にウクライナの戦いでは陸戦がメインという事もあり、陸上自衛隊が批判の矢面に立たされる。実際の記事ではこう書かれる。「我が国自衛隊の個人装備は余りにも心許ない。特に80年代に米軍などの世界中の軍隊で使われていたハーネスを未だに使い続けている。」「自衛隊はボディ・アーマーを採用しているが、それらは世代が古く、銃弾を防ぐことは出来ない。新しいボディ・アーマーを採用しているものもの、配備されているのは一部の部隊に留まっている。」今回はこれらの個人装備の古さから来る批判に反論していこう。

 まず先般のウクライナ侵攻により、ハーネスの有効性と最新防弾装備の脆弱性が明らかとなった。前年のウクライナ軍秋季攻勢において、ハーネスやチェストリグ等を装備したウクライナ兵達が持久戦を戦い抜いた。当たり前だが、携行できる装備が少なくなるプレートキャリア等の軽量小型装備は短時間で作戦を終了させるための物だ。今回のような長期に渡って同じ戦線で戦闘を行う古典的な戦争には向いていない。そして、近年のトレンドの短期の作戦を想定した装備を身に着けたロシア兵達がどのような結末を辿ったかはご存知の通りであろう。次に、古いボディアーマーから未だに更新されていないという批判だが、そもそも軍事組織の新装備というものは、採用されてから全部隊に一斉に配備されるものではない。配備されるまでに時間がかかるのでより敵と対峙する最前線に集中配備して、より速効的に効果を発揮するようにするのが常道である。あの米軍すら制式拳銃をガバメントからベレッタに完全に置き換えるのに10年をかけたのだ、ボディ・アーマーの配備が数年かかっても変わらないのは当たり前だ。実際九州に置いている部隊にはかなりの最新装備が与えられており訓練などでもその様子が伺える。以前と比べて装備更新のスピードがかなり上がっているのは日を見るより明らかだ。

そもそも自衛隊批判をする連中の中にはどのような自体を想定して批判しているか全く分からない者が多いように感じる。中国や北朝鮮に備えよ云々を抜かしておきながら最新の軍事のトレンドに合わないと言って批判する。そもそも最新の軍事のトレンドは大国相手の正規戦ではなくテロ組織を相手にした非正規戦を想定したスリムな組織である筈だ。しかし仮想的には中国や北朝鮮等の軍事大国を念頭に置いている。チャンチャラ笑える話だ。特に今回のウクライナ侵攻という古典的な正規戦に従来の非正規戦の論理が全く通用せず頭を悩ませる地政学者も多い。その中でこれまで通りの非正規戦のトレンドを土台に自衛隊を語るのはやめてウクライナと同じ状況になった時にどうなるかを軍事評論家達は論ずるべきだろう。これからは努めて情報や論説の取捨選択を軍事の分野に限らず(というか軍事とかいうとんでもなくニッチな分野の情報を欲しがる人は殆ど居ないだろうが)ワタシも読者の方々も心がけていきたい。

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