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母のこと

 母のことは好きだし、尊敬している。けれど、今まで私が出会ってきた女性の中で、一番謎なのは母かもしれない。小さい頃は、それほど気にしていなかったが、自分が大きくなるにつれ、母のことがわからなくなった。何を思ったり、感じたりしているのか、わかりにくい。愛情は深い人だとは思う。私のことを心配したり、大切に思ってくれているのはわかる。でも、母のことがわからない。

 うちは商売をしていたので、母は一見人当たりも良く、社交性もあるように思われる。けれど、ずっと地元にいたにも関わらず、友達が少なく、特別仲良くしている幼なじみというものも居なそうだ。あまり、自分のことを話さなかったからかもしれないが、母がどのような友達に囲まれてどのように育ったのか知らない。友達と出かけるところもほとんど見たことない。たまに誘われて出て行くと、ぐったりして帰ってくる。母にとって居心地の良い空間ではなかったのかもしれない。そんな母にも1人心地の良い距離感の友人がいるようだ。1人でもいてくれたら安心だ。

 母がどのように幼い頃を生きて、成長してきたのか、不思議だ。兄弟、姉妹の仲は良い。近所の人もいろいろ持って、母を訪ねてくる。それでもなんとなく、人との距離を感じるのだ。母にとっては、父が一番心を許せる相手だったのだと思う。父がいなくなり、母は片割れをなくした気分なのではないだろうか。父は、夫であり、きっといちばんの親友であった。お見合いで結婚して、性格の全く違う2人だが、お互いの足りないところを補い合うような夫婦だったから。 

 私は、母について知りたい。親子といえども、別の人格、わからなくて当たり前なのかもしれない。けれども、親子というこんなに近い存在である母を、私は到底理解しているとは思えないのだ。
 母も70代、見ていて老いを感じる。体はもちろんのこと、心の面で意欲の低下を感じる。

 「何かしたいことないの?」

 聞いてみても、これといった答えは返ってこない。父がいなくなってから、みるみる痩せてしまったが、今は元通りになっている。電話をすれば、笑いもするし、ご飯も食べている。それなりに元気にしている。でも、根底のところで、父の不在は大きいように感じる。

 近くにいれば、少しは母の力になれたのかもしれない。遠く離れた私にできることは何だろう。今のところ、電話で冗談を言って、母を笑わせることくらいしか思いつかない。
 体は老いていき、若い頃のようには動けない。そんな中での、新しい価値の発見、思想の転換は難しい。母は父に頼っていた部分があるけれど、それを私が補うことはできない。それでも、すこしでも母のことを理解したいと思うのだ。一緒に新しい何かを見つけられるといいのにな。

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