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階段に腰掛けて

 小学生前に、私が住んでいた家はとても古かった。トイレは汲み取り式だし、家の中には土間があった。台所(キッチンと言えるようなものではなく…)も土間にあり、居間に行くには、スリッパを履いて、土間を渡らなければいけなかった。とにかく、古い家だった。当時は、ネズミが出ていて、土間にはパチンと挟む金属の鼠取りを置いてあった。夜になると、天井裏をネズミが走る音がしたり、昼間には、裏口からヘビが入ってくることもあった。ホースと間違えて、私は青大将をつかんでしまったことがある。住んでいたのは6歳までなので、記憶もおぼろげではあるが、ところどころはっきりと思い出せる部分もある。

 この家の中で、私が一番好きだった場所は、階段だ。少し薄暗く、急な階段だったが、階段の途中に腰掛けて、絵本を読むのが好きだった。当時、よく読んでいた絵本は、西遊記、不思議の国のアリス、グリム童話、アンデルセン童話だった。あとは、幼稚園で毎月配られる絵本が楽しみだったことを覚えている。階段の狭いスペースに腰掛けて、薄暗い中絵本の世界に入り込む。私の読書体験の始まりかもしれない。家にはそれほどたくさんの絵本はなかったから、同じものを繰り返し読んだ。何度読んでも、楽しかった。

 新しい家になってからも、階段は好きだった。本を読んだり、ぼんやりとしたり。新しい家の階段は風通しがよく、気持ちが良かった。もしかすると、私は階段が好きだったのかもしれない。ブロック遊びでも階段を作るのが好きだったし、螺旋階段は見ているだけでワクワクした。


 お気に入りの階段を見つけて、1人でゆっくりと読書してみたいなあ。今の家の階段は、座り心地があまり良くない。小さく感じる。もしかしたら、私が大人になってしまったからだろうか。子どもの私にとっての階段は、椅子のようにしっくりとくるものだったと思うのだけれど…。


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