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魔法のコトバ

 スピッツの歌にもある、魔法のコトバ。それとはちょっと違うけれども…

 わたしは、病院に勤めている。入院患者様の中には、認知症の方も多くいる。認知症の方は、不安を抱えていることが多い。仕事で多くの認知症の方と接する中で感じたことは、感情は後まで残るということと、周囲の感情は伝染するということだ。


 認知症の特徴として、記憶力の低下がある。何か嫌な出来事があったとしても、その出来事自体はすぐに忘れてしまうことも多い。けれど、その時の感情は後まで残るようだ。お部屋に行くと、患者様が悲しんでいたり、不安になっていたりすることがある。理由を尋ねるが、本人にはわからない。周囲のスタッフからの情報で、嫌なことがあったのだとわかる。「嫌なこと」自体は忘れているのだが、それに付随した感情は残っている。本人にしてみれば、理由もわからず、悲しかったりするわけだ。それは、とても不安なことだと思う。原因のわからない悲しみや不安は対処のしようがない。


 そんな時に使うのが魔法のコトバだ。

「大丈夫。」

 不安そうな方には、まず、「大丈夫。」と伝える。できれば、背中に手を添えたりして、少し触れ合った状態で伝える。疑問形の「大丈夫?」ではなく、断定の「大丈夫。」だ。何度か繰り返し、伝える。もちろん、魔法のコトバが効かないこともあるけれど、試した中で1番効果のある言葉なのではないかと思っている。

 そしてもうひとつ、周囲の感情は伝染する。みんなに当てはまることかもしれないが、特に認知症の方を見ていて思うことだ。なんとなく、みんなが楽しげに過ごしている空間にいると、表情が穏やかになっていく。反対に、困ったことや嫌なことを話している中にいると、表情が曇ってくる。話の内容がわかっていなくても…だ。周囲の人の口調や表情から、影響を受けてしまうのだと思う。だから、できるだけ、笑顔で穏やかな気持ちで接するように心がけている。

 「大丈夫。」

 わたしにとっても魔法のコトバだ。自分がしんどい時や辛い時に自分に言い聞かせる。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫。」
不思議と、気持ちが落ち着いてくる。なんの根拠もなく、無責任なコトバに聞こえるかもしれないが、それでも「大丈夫。」なのだ。
魔法のコトバだから。

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