【覚え書き】2024SS(Tokyo)8/29/2023
el conductorHのショーの会場には街の環境音が響き渡っている。
時折紛れ込むパトカーのサイレン音は、日常と背中合わせの不穏が街に溢れていることを聴覚を通してショーの参加者に示していた。
デザイナーはパリ市内で起きていたデモを目の当たりにしたことをきっかけに、我々を抑圧するものとはなにかという問いかけから本コレクションのクリエイションをスタートさせたという。
ショーの中ではグレンチェックウールのセットアップや、シャネルスーツを思わせるジャケットなど、いわゆるエレガントさをたたえたアイテムが特に目を引いた。
しかしながら、グレンチェックウールの上に格子状の有刺鉄線がプリントされ、ジャケットはぼろぼろに引き裂かれたスウェットパンツと組み合わされることによって、こういったエレガンスはたちまち我々をファッションという構造のもとに束縛し、抑圧する象徴のようにも見えてくる。
スクールガールを思わせるアイテムも目立った。しかしコーディネートに取り入れられた色褪せたスカジャンや喪服を思わせる黒いネクタイは、制服を取り巻く一般のコードからはみ出すものである。
衣服によって、張り巡らされたコードの合間を縫って外に出る。私たちを束縛するものからはみ出し、逃走する。衣服は私たちを束縛する一方で、逃亡し自由になるための力を与えてくれるものでもある。
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ファッションはその内部に多様なコードが張り巡らされている社会的なシステムである一方で、個人的な経験に肉薄するものでもある。
SHINYAKOZUKAのショーは、ナイトキャップのような帽子を被り、片手に地球儀を持ったモデルの登場で幕を開けた。
白地のジャケットに青でプリントされているのは、小塚の(都市についての、といってもいいだろう)ドローイングである。
しかし家より大きな犬、木の前を通り過ぎる象のような動物などといったそれぞれのモチーフは、それ自体脈絡のない、まるで夢のようなイメージである。
ショーでは、ナイトキャップや夢のような光景を描いたドローイングがプリントされたジャケットなど、「眠り」にまつわるアイテムが目立った。
交通機関をはじめとする様々なインフラが張り巡らされたシステマティックな都市の中で、一時の「眠り」(「何の変哲も無い」住宅街を彷徨うことで都市の姿が「絵空事」になること)は私たちを都市本来のカオスさへと誘う。
デザイナーはこうも言及する。
「ファンタジー」としての都市空間、それは都市の中の様々なディティールがあらゆる可能性に開かれた都市のあり方であるといえよう。それはあらゆる事物が脈絡なく変容し運動する夢の映像とも類似する。
ショーの終盤、会場裏に帰っていくモデルたちの姿は、「眠り」に誘われる人々のようだった。
2023.08.30 1:35
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