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【覚え書き】2024SS(Tokyo)8/29/2023 


el conductorHのショーの会場には街の環境音が響き渡っている。
時折紛れ込むパトカーのサイレン音は、日常と背中合わせの不穏が街に溢れていることを聴覚を通してショーの参加者に示していた。




デザイナーはパリ市内で起きていたデモを目の当たりにしたことをきっかけに、我々を抑圧するものとはなにかという問いかけから本コレクションのクリエイションをスタートさせたという。




ショーの中ではグレンチェックウールのセットアップや、シャネルスーツを思わせるジャケットなど、いわゆるエレガントさをたたえたアイテムが特に目を引いた。




https://www.fashion-press.net/collections/18990


しかしながら、グレンチェックウールの上に格子状の有刺鉄線がプリントされ、ジャケットはぼろぼろに引き裂かれたスウェットパンツと組み合わされることによって、こういったエレガンスはたちまち我々をファッションという構造のもとに束縛し、抑圧する象徴のようにも見えてくる。




スクールガールを思わせるアイテムも目立った。しかしコーディネートに取り入れられた色褪せたスカジャンや喪服を思わせる黒いネクタイは、制服を取り巻く一般のコードからはみ出すものである。


https://www.fashion-press.net/collections/18990





衣服によって、張り巡らされたコードの合間を縫って外に出る。私たちを束縛するものからはみ出し、逃走する。衣服は私たちを束縛する一方で、逃亡し自由になるための力を与えてくれるものでもある。





はみ出した中綿






・・・



ファッションはその内部に多様なコードが張り巡らされている社会的なシステムである一方で、個人的な経験に肉薄するものでもある。




https://www.fashion-press.net/news/108305



SHINYAKOZUKAのショーは、ナイトキャップのような帽子を被り、片手に地球儀を持ったモデルの登場で幕を開けた。






白地のジャケットに青でプリントされているのは、小塚の(都市についての、といってもいいだろう)ドローイングである。





https://www.fashion-press.net/news/108305






しかし家より大きな犬、木の前を通り過ぎる象のような動物などといったそれぞれのモチーフは、それ自体脈絡のない、まるで夢のようなイメージである。






https://www.fashion-press.net/news/108305



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ショーでは、ナイトキャップや夢のような光景を描いたドローイングがプリントされたジャケットなど、「眠り」にまつわるアイテムが目立った。




イタリアンレストランでエプロンをしてあくせく働く店員
そのお店でマルゲリータ的なものを囲む、 カップルになるかどうか微妙な距離感の男女
コンビニで僕の前でタバコを3箱買い、 路地裏に消えていく上下スウェットのおじさん
(中略)
夜の帰り道に見た光景です。 散歩するのが好きで、よくビール片手に歩いています。 20歳の 頃は、終電で神戸や京都に行き、 朝にかけて実家の大阪まで歩いたりもしていました。 綺麗 な景色や名所は通らずに、 商店街や住宅街を歩き、 偶然出逢った上記の景色等を見るのがと ても心地よく感じます。 頭の中でこれらの景色は勝手に、それぞれがそれぞれの役割を演じ ている劇にも見えるし、限られた情報の中で、 その奥のストーリーを思い描く時を読んでいる ような感覚になるからです。 若い頃のように、半日かけての散歩はさすがになくなりましたが、 気が向くと事務所から自宅に歩いて帰ったり、自宅のある最寄りから少し離れた駅で降りて、 散歩しながら帰るようにしています。 散歩をしている時が、一番考え事をしていたり、アイデア を練っている時間で、リラックスしたとても心地よい時間が流れます。 頭の中は、真っ白なキャ ンバスに言葉や絵が描かれていき、 それらが、 住宅街の何の変哲もない景色に重なり、絵空 事みたいな景色になる感覚です。

SHINYAKOZUKA 2024SSプレスリリースより引用




交通機関をはじめとする様々なインフラが張り巡らされたシステマティックな都市の中で、一時の「眠り」(「何の変哲も無い」住宅街を彷徨うことで都市の姿が「絵空事」になること)は私たちを都市本来のカオスさへと誘う。






デザイナーはこうも言及する。

ですので、 「ストリート」という言葉は自身にとっては「ファンタジー」なのかもしれません。

SHINYAKOZUKA 2024SSプレスリリースより引用





「ファンタジー」としての都市空間、それは都市の中の様々なディティールがあらゆる可能性に開かれた都市のあり方であるといえよう。それはあらゆる事物が脈絡なく変容し運動する夢の映像とも類似する。








ショーの終盤、会場裏に帰っていくモデルたちの姿は、「眠り」に誘われる人々のようだった。




2023.08.30 1:35

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