手根管症候群(carpal tunnel syndrome:CTS)
概要
手根管とは4つの手根骨と横手根靭帯 Transverse Carpal Ligament:以下TCL(屈筋肢体)に囲まれた閉鎖空間となっています。
その内部を正中神経と他に手指・手関節の屈筋腱が通過します。
手根管症候群(以下CTS)は手根管内での正中神経の圧迫や反復される刺激により引き起こされ、手関節以遠の正中神経支配領域における疼痛や感覚障害、また支配筋の筋力低下や萎縮を呈します。
年齢としては45歳から65歳の年齢層に多く見られ、男女比としては1:3とされています。また、CTSは中高年女性の発症率が多い特発性と橈骨遠位端骨折後の変形治癒例などに発症する非特発性に分類されます。
手根管
概要で述べたように、手根管とは4つの手根骨とTCLに囲まれた空間とされています。
もう少し、手根管内部を掘り下げて説明するとTCLは一般的には橈側部が舟状骨結節もしくは大菱形骨の掌側に付着し、尺側部は豆状骨橈側もしくは有鉤骨に付着します。
TCLの直下には正中神経と浅指屈筋腱・深指屈筋腱・長母指屈筋腱が隣接しています。
手根管内には一定の圧がかかっている。正常値は2.5mmHgであるのに対し、手根管症候群例は30mmHgであり、手関節掌屈位にすると100mmHgにもなるとされている1)
男性よりも女性の方が手根管の径が小さい
正中神経
第6頚神経〜第1胸神経へ分かれる腕神経叢の枝となります。また、神経自体は指尖まで分布します。
正中神経領域は上図のようになっています。
原因
概要にて特発性と非特発性で挙げましたが更に細分化すると以下のようになります。
神経誘発テスト
正中神経に対して圧迫、刺激入力することで疼痛・痺れの誘発を行い手根管症候群か否かを判別します。
Tinel徴候:末梢神経障害における障害部位を刺激することにより痺れた感覚が出ます。よく言われるのは、蟻走感を生じます。
Phalenテスト:手関節最大掌屈位で1分程度保持することで正中神経領域に疼痛もしくは痺れの増悪を生じます。また、掌屈位ではなく背屈位で行う逆Phalenテストもあります。
スクリーニング検査
CTSの場合、正中神経領域のスクリーニング検査を行います。
母指球筋の萎縮確認:CTSの場合、正中神経麻痺となるため正中神経領域の筋の萎縮が生じる。
その場合、母指球筋を見ると分かりやすいため指標となっている。母指球筋が萎縮している状態を猿の手に似ていることから猿手(Ape Hand)と呼ばれる。Perfect O test(母指対立動作):CTSの場合、母指対立筋が麻痺を生じることによりピンチ動作が困難になり正円(Perfect 0)が困難になります。
治療方法
治療法は保存療法と手術療法があります。
症状が軽ければ保存療法より経過観察となり、寛解しなければ手術療法へ移行する流れとなるのが一般的だと思います。
保存療法:①ADL動作指導(手関節、手指の使用頻度コントロール。②Splintもしくは装具による手関節固定。③NGEによる神経滑走訓練。③薬物療法。
手術療法:①ガングリオン、腫瘍などによるものでは切除、摘出術を施行される。②その他の要因が考慮された重度例であれば手根管開放術を施行される。
リハビリ介入としては、保存療法時のADL指導、Splint作成の他にはTCLの肥厚による手根管内圧の上昇が考えられるため、できる限りTCLに対するストレッチをしていき、NGEによる神経滑走促通が必要になるのではないか。と考えます。
下に手根管症候群に対するNGEの方法を記載します。参考にしてみてください。
NGE(Nerve Gliding Exercise)
・方法:HunterらのNGE法を使用します。図9の手指の肢位を番号順に施行します。また、それぞれの肢位に対して7-8秒程度保持します。これを1回の訓練の中で4-5セット行います。
参考文献
1)Perry J.Burnfield JM:Gait Analysis:Normal and Pathological Function,2nd ed,Slack Incor-
porated,New Jersey,pp52-82,2010
2)Totten PA,Hunter JM,et al:therapiutic techniques to enhance nerve gliding in thoracic outlet syndorome and carpal tunnel syndrome.Hand clin7:505-520,1991
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