#2 『踏切』
カン、カン、カン、カン!
突然の警報に驚き勢いよくスマホから目を離す。
「(なにごと!?)」
私よりもビクついているノミの心臓を宥めすかしていると、夕日を映す視界の端っこで、交互に点滅する赤が目に飛び込んできた。
続けて、虎柄のポールが行く手を阻むように水平に止まる。
降りた遮断器の向こう側、同じ高校の制服を着た生徒がこっちを見ていた。
ここまで体感にして約10秒。
下を向いたまま歩いてたから、かなり驚かされた。
状況を認識した私は、深呼吸をひとつして、光のないスマホに視線を戻すと、別のことを妄想する。
もし、警報や虎柄ポールに邪魔されず、遮断器の向こうを歩いていたら――。
突如、鉄塊が列を成し、風を押しのけ通り過ぎた。
撒き散らされる轟音と衝撃波。
密度の高い圧力が波となって私を襲う。
風に舞う赤と、かき消された悲鳴。
足元に転がる親友の手首が鮮明な色を持ってフラッシュバックする。
…… もし、あの時一緒に、
「向こう側を歩いていたら、また、夏織に会えたのかな……?」
……なんて、その先を考えるのは止めておいた。
壊れたスマホをポケットにしまい、進行方向を確認する。
遮断器が昇ると、私は何事もなかったように、死の境界線上を通り抜けた。
「(今度、墓参りに来た時は、きつね屋の水羊羹でもお供えして、現世で私がどれだけエンジョイしているか語ってあげよう)」
文句を言う夏織が目に浮かび、足が止まり、我慢していた雫が、どうしようもなく溢れ出てしまった。
踏切を越えて、逝ってしまった夏織。
踏切を越えられず、残ってしまった私。
名前を呼ばれたような気がして、振り返ったその先に『 』と、私に手を振る夏織が、そこに、まだ、居た気がした。
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