インテリアスタイリストの修行
ものを携える。
なんですか?コレは。税関で尋ねられること幾たび。そのたびに説明をして、さあ、たぶん拙い英語で説明されてもよくわからないんだがぁ、といった困惑顔でふんふんと頷きつつ、これ以上は埒あかん、と意を決したようにパンとスタンプを押して無事通過。
どこの国でもお人柄とお国柄、行き交うところ難関あり、もう慣れっこになった。
いちばんの苦労は許可が降りて、税関員の見つめるなかで、一度取り出したら最後、2度と元へは戻せないようなトランク周りの惨状。孤立無援の作業にあまんじて原状回復する。
ものを伝える。
落ち着いてひとつづつ。細かいもの、めんどくさい、からはじめるんだよ。
散乱する心にいつも、祭りの後のお雛様を一緒に片付けた叔母の声がする。
冠の細工や持ち部品、鼻や指や衣の裾といった凸部、継手、そういった細かいところから先に真綿で覆って小箱に収めた。
屏風などは畳んだ間に和紙を一枚挟んで互いに傷つかぬよう、部品の蝶番や楔は無くさぬよう小袋にまとめて貼付する。
こどもはそうやって複雑な仕事の手順を覚え、パズルのしかるべき一画に収めてゆく片付けの理論を習ってゆくものなのだね。
そしてついに始末のとき、噛んでるものがないか慎重に確かめて施錠。
今やっと帰途につく。
ものを保つ。
さて、わが家にて。どこに|《おさ》納めようかと手に持ったままうろうろと。まじまじと眺むれば、場所が違うせいなのか微妙に印象も変わる。
忘れがたい出会いの感動をなるべく損なわないような背景はいずこに。
窓からの、あるいは手持ちのランプと、周囲にあるいくつかの、過去に収まったものたちと光の調和を。無理矢理、不自然、違和感、無秩序、行き詰まったら既成概念という埃を払って磨きながら加減する。そうやって時のまにまに行きつ戻りつたどり着く「居心地やたたずまい」までの道のりの遠さよ。
ハウスキーピングを「家政」とはよく言ったものだ。保つことは、古くて新しい、どこかでいつか見た、新鮮で面白い計画の終わりのない旅路なのだ。
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