お兄ちゃん、ヒーローになる!

日曜日の朝、6歳の翔太はテレビに釘付けだった。いつも見ているヒーロー番組が始まると、彼は夢中になってスクリーンの前でヒーローの動きを真似する。仮面をつけた勇者が悪者を倒すたびに、翔太は拳を握りしめて「カッコいいなあ…!」と呟いた。

「ねぇ、お兄ちゃん!」4歳の妹、美咲が隣に駆け寄ってきた。いつも翔太にくっついて回る美咲は、お兄ちゃんのやることすべてがカッコよく見える。

「僕、ヒーローになる!」翔太が突然立ち上がり、決意に満ちた声で宣言した。美咲は大きな瞳をキラキラさせて「本当に!? じゃあ、私もヒーローの仲間にして!」と元気いっぱいに答えた。

翔太はしばらく考え込んでから、にっこりと笑った。「いいよ。でも、まずはトレーニングしないとね。ヒーローは強くなきゃいけないから!」

それを聞いた美咲は、真剣な顔で頷いた。「うん!私、頑張る!」

その日の午後、二人は家の庭に出て、翔太が考えた「ヒーロー訓練」を始めた。まずは、「ヒーロー走り」の練習。翔太が手本を見せて、美咲はその後を一生懸命追いかける。短い足を懸命に動かす美咲に、翔太は「いいぞ、美咲!その調子だ!」と励ます。

次は、「悪者撃退パンチ」の練習だ。翔太が段ボールで作った「悪者ロボット」を立てて、美咲にパンチを教えた。「こうやって、敵を一発で倒すんだ!」と言いながら、翔太が見本を見せると、美咲は大きく目を見開いて「すごい!お兄ちゃん、ホントにヒーローみたい!」と拍手を送った。

美咲も「私だってできる!」と言って小さな拳を振り上げ、ロボットに向かってパンチを繰り出したが、力が弱くて「ぽん」と軽い音がしただけ。翔太はそれを見て笑いながらも、「最初はみんなそうだよ。続ければ強くなるからね」と優しくフォローした。

夕方、二人は疲れ果てて庭に横たわっていた。空は少しずつオレンジ色に染まり、涼しい風が吹いてきた。翔太は、美咲の方を向いて「今日はいい訓練だったな。お前、結構すごいよ」と言った。

美咲は嬉しそうに笑って「ありがとう、お兄ちゃん。でも…」と言いかけた。

「でも?」翔太が不思議そうに聞くと、美咲は少し恥ずかしそうに言った。「私、やっぱりお兄ちゃんが一番のヒーローだと思う。」

翔太はその言葉に驚いて、しばらく何も言えなかった。顔が赤くなった翔太は、照れ隠しに「そんなことないよ!」と言ったが、心の中では少し嬉しかった。

「ありがとうな、でも僕もまだまだ練習が必要だよ。ヒーローは簡単にはなれないからね。」

「うん、じゃあ私ももっと頑張る!」美咲は満面の笑みを浮かべ、元気よく返事をした。

その夜、二人は布団の中で小さな声で話しながら眠りについた。翔太は心の中で、いつか本当にヒーローになって、美咲を守るんだと固く誓った。美咲も、お兄ちゃんのそばで一緒に戦うヒーローを夢見ながら、幸せそうに眠っていた。


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