初めてのお使い
朝日が窓から差し込み、カーテンを柔らかく照らしていた。7歳の姉、彩乃(あやの)はその光を受けて目を覚ました。今日は特別な日だった。妹の花(はな)と二人で「初めてのお使い」に挑戦する日だからだ。
「彩乃ちゃん、起きて!」4歳の花がベッドに駆け寄って、嬉しそうに姉を揺さぶった。
「もう起きてるよ、花。今日は一緒にお使いに行く日だね。」彩乃は笑いながら布団を跳ね上げ、妹の手を優しく握った。
母がキッチンで朝ごはんを準備している間、二人は何度も母から受けた指示を復唱した。「パン屋さんに行って食パンを買うんだよ。それから、隣の八百屋さんでにんじんを1本ね。わかった?」と母は心配そうに見つめたが、彩乃は自信に満ちた顔でうなずいた。
花は少し不安そうだったが、姉と一緒なら大丈夫だと思っていた。姉はいつも優しくて、何でも知っている「すごいお姉ちゃん」だったからだ。
準備を整えた二人は、家のドアを開けて外に出た。朝の空気はまだ少し冷たかったが、二人はそれを気にせず、母の見守る中、元気よく手を振りながら歩き出した。
「まずはパン屋さんだね。ちゃんと覚えてる?」彩乃が問いかけると、花は少し緊張しながらもうなずいた。「うん、覚えてるよ!食パンを1つでしょ?」と花が言うと、彩乃は「そうだね!」と笑顔を返した。
二人は手をつないで歩き続け、やがてパン屋に到着した。彩乃は店のドアを開け、花を先に店内に誘導した。店の中には、あまいパンの香りが漂っている。花はその香りに一瞬気を取られたが、すぐに姉の顔を見て、頑張らなきゃと気を引き締めた。
「すみません、食パンをください!」と彩乃が元気よく声をかけると、店主のおじさんがにっこりと微笑みながら食パンを渡してくれた。
「おつりもちゃんともらえたね!」花が嬉しそうに言うと、彩乃はうなずきながら、「さあ、次は八百屋さんだよ」と手を引いて店を後にした。
次に向かったのは八百屋さん。彩乃は少し大きな通りに差し掛かると、花の手をぎゅっと強く握った。「大きな道路だから、ちゃんと信号が青になるまで待とうね。」彩乃は自分でも少し緊張していたが、妹に安心させるように優しく言った。
「うん!」花は姉の言葉を信じて、しっかりと手を握り返した。二人は信号が青になるのを確認してから、無事に道路を渡った。
八百屋さんに着くと、彩乃は店先に並ぶ新鮮な野菜を見て、少しだけ迷ってしまった。「にんじんって…どれだったっけ?」と声に出してしまうと、花が急に前に出て、「これだよ、にんじん!」と小さな手で指差した。
彩乃は一瞬驚いたが、すぐに笑顔になった。「そうだね、花、すごいよ!ちゃんと覚えてたんだね。」花は誇らしげにうなずき、二人で無事ににんじんを買うことができた。
お使いを終えて、家に帰る道中、花はずっとにんじんを大事そうに抱えていた。彩乃はそんな妹を見て、何だか胸が熱くなった。いつも自分が守ってあげなければならないと思っていた妹が、自分を助けてくれた瞬間があったからだ。
家に到着すると、母がドアを開けて出迎えた。「おかえり!どうだった?無事にお使いできた?」
「うん!花も頑張ったんだよ!」彩乃が笑顔で答えると、花も「にんじん、私が見つけたんだよ!」と元気いっぱいに言った。
母は二人をぎゅっと抱きしめ、「二人ともよく頑張ったね」と涙をこらえながら微笑んだ。姉妹は、初めてのお使いを無事に終えた達成感と、互いに助け合ったことの喜びで満ちていた。
その夜、二人は布団の中で手を握り合いながら、「また一緒にお使いに行こうね」と約束をした。彩乃は心の中で、妹の成長を誇らしく感じ、これからも一緒に歩んでいく未来を思い描いていた。
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