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2024年度の大学進学問題に関する若干の分析-日経記事への疑問-

 ※-1 2024年度大学入試に関するひとつの話題

 「今年の受験生は堅実志向 共通テスト13,14日実施 制度変更控え浪人回避の動き」という見出しになる記事が,『日本経済新聞』2024年1月11日朝刊「社会」に掲載されていた。

 この報道に接したとき「ある種の疑問」がただちに浮上した。とりあえずまずは,この記事の現物を切り出して紹介しておきたい。電子版からもその前文と冒頭段落のみだが,画像資料として出しておく。

 要は浪人生の受験者数の減少=堅実志向だけが,入学試験難関校の受験者が減少する要因になっているのか,という疑問があった。そのあたりに関連する諸事情についてはこの記事じたいが言及していないのではない。

 その点も考慮に入れて以下の記述をおこなってみたい。

記事全文
記事「見出し・前文・冒頭段落」の引用

 つぎの紙面紹介は本日,2024年1月12日『毎日新聞』朝刊の社会面記事に掲載されたものであるが,最近における入試方法の内容変化が図表をもってよく表現されている。

年内入試が主流化


 ※-2 18歳人口と大学入試問題

 まず,年度ではなく通年での区切りになるが,その間における「3ヵ月のズレ」は,ひとまずその期間の分だけ後れて区切って計上される人口統計になるが,人口が減少していく時代における議論としては,以下の議論に関して支障はなく,とくに問題は生じないはずである。

 つぎに,2023年における18歳人口,つまり就学年数にしたがい,通常に大学を受験し,進学する当該「年齢18歳の人口統計」そのものは,

 進学率の上昇傾向だとか浪人生の減少傾向だとか,くわえて,社会人の増減だとか留学生の受け入れ数だとかの関連する諸要因の介在はひとまずおき,概略的な理解でするために確認することになれば,つぎのようであった。 

  2022年の18歳人口 112,1285万人
  2023年の18歳人口 109,7461万人(前年比 2,3824万人減で,97.88%
 
 補注)ちなみに2023年の出生数は約73万人であった。この人口統計値(年齢18歳時)の大学入試に当たる年は2042年度となるが,この年の春になったら,入試難関大学への志望者「動向」がどうなるかは現時点では予想しづらい。それにしても,全般的にはさらに緩くなると,みるほかないか?(文教政策の問題でもあるゆえ「?」を付しておく必要があるが)

 註記)前段の各年における「18歳人口」については,つぎの統計を参照した。

18歳人口の推移

 いまから18年先の問題がどうなるかの点は,本日のこの期日(2024年1月12日)においてはまだ,直接には関係がないとみなしておく。それでも,現実に社会問題になっている「将来における18歳人口の推移」に触れてみたのは,現在においてまででもすでに,日本社会の問題として確実に進行してきた少子化現象が,「大学のあり方」に対しても「現実の課題」となって重大な関連を有していたからであある。

 補注)少子化現象が日本よりも早くから急速に進行してきた隣国の韓国では,つぎの引用では要約的な部分のみ紹介するが,『朝鮮日報』(韓国の大手紙)が,先月の時点でつぎのように説明していた。

   ★ 韓国の大学推薦入試,6割は定員割れ… 四年制大学
      202校の競争率を全数調査 志願者が1人の大学も ★

 =『朝鮮日報』2023/12/17 15:05,https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2023/12/13/2023121380128_2.html

 大学の定員割れは今後さらに深刻化する見通しだ。2021学年度から大学の定員(短大を含む)が大学修学能力試験(修能,日本の大学入学共通テストに相当)の受験生よりも多いといった現象が起こりはじめた。

 今年(2023年)も大学入試の定員は51万8884人だが,大学入試の受験生は50万4588人にとどまった。これさえも浪人生が30%を占め,現役の高校3年生の受験生は32万6000人に過ぎない。

 2035年には大学に行ける満18歳の高校3年生の人口が38万6000人に急減する。2038年には29万1000人と,30万人台を割りこむことが予想されている。専門家たちは,人口絶壁(国家人口統計グラフが急激に下落する現象)に直面する前に大学の構造調整を急がなければならないと強調している。

『朝鮮日報』2023/12/17  


 この韓国における大学事情は他人事ではない。日本の大学も前世紀のすえごろからこの種の定員割れ問題は,少しずつであっても同様に抱えてきた。またその間,いろいろと対策を講じつつ問題が表面化しないようにやりすごしてきた。

 だが,韓国の大学と同じ現象がこれからいつ顕示的に現われるか予断を許さない。5年から10年先には,この隣国の大学事情と同じ症状が起きる可能性が大である。

 ともかく,この記述全体で問題にとりあげるのは,2023年までと比較した2024年〔度〕における大学受験の動向・変化についてとなっていた。

 なかんずく,「今年〔2024年度〕の受験生は堅実志向 共通テスト13,14日実施 制度変更控え浪人回避の動き」といった見出しをつけた『日本経済新聞』2024年1月11日朝刊の記事が示した理解は,一定の違和感を抱かせる内容になっていた。

 しかもこの記事は,教育産業のある1社が出した調査結果にもとづいて書かれていた。この典拠とする方法にも若干の不安感を抱かせるところが,だいぶ気になってもいた

 ともかく,なるべく話を分かりやすくするために,いくらか単純化する点も断わったうえで,以下の記述をする。ここではいったん,2024年度大学入試に向かう若者の人口統計,すなわち18歳人口は「前年比97.88%」であった点に注意しておき,以下の記述に進む。

 ところでまた,その日経記事の中身が,大学としては国(公)立と私立を問わず難関校に関する分析であったにしても,そもそも,このように比率(%)中心になる比較をした視点だと,どうしても,近視眼的にならざるをえないまま,遠ざけられかねない基本的な要素を,当初からかかえこまざるをえなかった。

 2024年1月13日補注) 1月13日にはじまった大学入学共通テストについては,この2024年度に入学して新入生になる18歳人口が問題の数字であったが,1年度前の2023年度用のこの共通テストの受験者数は51万2581人だったものが,今年における2024年度用のその受験者数は49万1914人に減少した。

 その減少率は比率でいうと95.97%である。それゆえ,共通テストの関係で判断すべき統計として,このままごく単純に『日本経済新聞』2024年1月11日朝刊の記事に出ていた,それも国立大学系の諸大学に対する志願率の数字は,

  九大 91%,北大・阪大 94%,東大 97%

であったから,この単年度だけに関した比率でもってのみ,なにか決定的な傾向,それも減少率のそれについて語ることは,時期尚早というか適当な時期にはなかったかといえる。あるいはまた,その種の比較を試みたところで意味のある議論ができるかどうかさえ,まだなんともいえないと断わっておく余地がある。

 日経のその記事はまた,難関私大については96%と98%という比率を例示していた。これを,前段の減少率95.97%に対置させたところで,有意な差とみなせるほどの議論ができる点を汲みとるのは,まだ無理があった。

 要するに,いささか議論のための議論であった嫌いが否定できない「記事の作り方」になっていなかったか,という疑念が残されている。

 

 ※-3 文部科学省の「大学等進学者数に関するデータ関係」「参考資料集 資料1-3」2023〔令和5〕年9月25日

 文部科学省からは2023〔令和5〕年9月25日付きで,「大学等進学者数に関するデータ関係」を収拾,編集した資料集「参考資料集 資料1-3」が公表されていた。

 註記)同上資料集のリンク先・住所はこれである。少し後段で目次についてだけはその身だしを紹介する。
  ⇒ https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/000255573.pdf

 この資料集に集録されている関連の諸統計は,次段に引用するその「目次」のとおりである。

 問題は,大学進学に関したこれらの諸統計数値のなかで,入試難関校への進学志望者の「減少率」について,この日経記事が解説記事的に報道したところの「減少したその比率」を,特定の意味深長さが確実にありえたかのように伝えるのは, “深読みならぬ浅読み” になってしまう懸念があった,と受けとめている。

 以下にかかげてみる,前掲「大学等進学者数に関するデータ関係」「参考資料集 資料1-3」の「目次の一覧」に出ていた諸要因に照らしての話となるが,本記述がとりあげて話題にしている日経の記事が,見出しを「共通テスト13,14日実施 制度変更控え浪人回避の動き」だとして報道したさい,その「受験生側の慎重な動向」といった面を格別に重視し,分析したかったごとき姿勢には疑問を感じた。

  ◆「大学等進学者数に関するデータ関係」を収拾,   
         編集した資料集「参考資料集 資料1-3」◆


目 次

「大学等進学者数に関するデータ関係」(3~26頁)

  18歳人口と高等教育機関への進学率等の推移
  大学・短期大学数の推移
  高等教育段階における進学率

  男女別・18歳人口と大学進学率等の推移
  都道府県別大学(学部)進学率の変化(過年度卒業者等を含む)
  大学進学時の都道府県別流入・流出者数

  社会人入学者の動向
  外国人留学生数の推移
  外国人留学生入学者の動向(学部・通学制)

   各国の学生に占める留学生の割合
   私立大学の経営状況について
   私立短期大学の経営状況について

   私立大学における地域別の入学定員充足率
   私立短期大学における地域別の入学定員充足率
   男女別・都道府県別4年制大学進学率

   高等教育機関への教育支出における私費負担割合
   大学入学者数等の将来推計について【推計の考え方】
   2040年~2050年の進学率・進学者数推計結果

   (参考)2040年の各都道府県進学者数等推計(2021年基準)①~④関連する答申,

「提言・審議まとめ関係」(28~41頁)

  平成以降の高等教育改革の概観

  2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)以降の審議
の流れ

  「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン【答申】(平成30年
11月26日)」を踏まえた取組状況①~③

  2040年を見据えた大学院教育のあるべき姿~社会を先導する人
材の育成に向けた体質改善の方策~(審議まとめ)概要

   教学マネジメント指針の概要

   教育と研究を両輪とする高等教育の在り方について(審議まと
め)概要

  「教育」と「研究」を両輪とする高等教育の活性化に向けた方向性

   これからの時代の地域における大学の在り方について~地方の
活性化と地域の中核となる大学の実現~

   新たな時代を見据えた質保証システムの改善・充実について(審
議まとめ)概要

   学修者本位の大学教育の実現に向けた今後の振興方策につい
て(概要)

 しごく簡単にいってのける。18歳人口を主軸に考えざるをえない大学入試の現状は,それほど大きな変化を起こしておらず,直近の年々についてとりたてて有意な差をみいだす程度のものではなかった。というのが,本ブログ筆者の観察である。

 前段に紹介した目次の一覧に列記されている各要因についてそれぞれ精査してみれば,前段のごとき指摘については,いくらか支持しにくい要因も含まれてはいても,全体的な基本の傾向としては,日経記事の表に例示されていた入試難関校についてからして,そもそも,ごく自然な減少率(その傾向的な低落に近い)が指示(意味)されていたと解釈したほうが無難である。

 その数値=減少率をもってそれ以上に,しかもとくに「制度変更控え浪人回避の動き」という理解するのは,それも「予備校関係者」の分析・予想を汲みとって書かれた記事だとしても,なお問題含みという点で,いささか読み過ぎの感が強い。


 ※-4 大学進学率の動静

 要は,受験生側の動向としてみるに,大学進学への志望者総数じたいは,いくつもの要因をともないながら「+ 増加傾向」になっている。それに対して「- 減少傾向」となる要因は,それほど多くはなくむしろ少ない。

 そのなかで現象しているという「入試難関校への受験志望者の減少傾向(しかも制度変更を意識し対処した浪人回避)」そのものの意味は,仮に今回かぎりの現象であったを捕捉できたとしても,実は,なおごく自然に続いてきた人口統計上の動向の線上での出来事であって,

 つまり,+にも-にもなりうる動きを含みつつ変動してもきた,大学入試センター試験志願者におけるその比率としてみる場合,2007年から2022年までを通して,20.4%から14.5%へと5%の減少を記録した。

 しかしながら,その6年間における全体としての減少傾向のなかでも,増加した年が3度あった。しかし,大勢の流れを理解するときそれでも,その増加した年に対して,特別に大きな意味を与えられない。

 それもこれもみな,時代の流れのなかで進行してきた18歳人口の傾向的なな減少を受けて,これを反映させた動向であったと観るのが,より妥当性ある理解だと考える。だから,大学入試センター試験の終了に特別に大きな意味を与えるのは,大学受験全体の意味あいに雑音を送りこむことになりかねない。

 要するに,この記述が問題にしてみた日経記事,大学進学率をめぐる「入試難関校への志望率減少,それも数%程度の揺らぎ(下降)」にあえて有意な意味を,浪人回避の動きとしてだが,なかでも格別に汲みとろうとする意図には,まだ疑問が残ったままである。

 もっとも,一回かぎりの1年の出来事についてだけ生じているらしい,その種の現象生起に着眼することじたいに異論を呈するつもりはない

 前段に紹介してみた文部科学省文書の「目次」のなかには,浪人ウンヌンの要因に対する評価以前に「進学率の増大要因」のほうにも注目する必要があった。

 しかし,より長期的な視野で観れば,18歳人口そのものはさらに減少していく。単年度において発生しているその事象を,受験生やその保護者,高校関係者,受験産業などを主に,世間に広く伝えることは,もちろん意味のあるマスコミ・メディアの任務である。

 とはいえ,入試難関校への志望者率が減少してきた現実問題の背景には,まだ,いわば一筋縄ではいかない「各種の教育社会経済的な関連要因」が控えている。それゆえ,今回だと「共通テストの制度変更」を控えた前年度になって現象した具体的な話題だからといっても,そう簡単にはさらに解釈しきれない問題が,その裏側に残置されていないわけではない。

 それでも,入試難関校への進学志望者が数%単位で減少していった事情・理由をめぐっては,むしろ,大学進学のためにかかる経費の負担の重さ,日本におけるとくに労働者階級(階層)をめぐる年収が数十年にもわたり停滞してきている事実もあって,

 そして,2022年2月24日に「ロシアのプーチン」が始めたウクライナ侵略戦争などの悪影響のために,日本経済もいよいよ賃金上昇をまともにともなわない,つまりインフレ経済ばかりがすでに進展してきたなかで,大学入試や進学の話題そのものにばかり注目した議論に終始しているとしたら,

 「現状日本における経済社会の実相」のひとつとして重要な課題である教育問題そのものも十全に踏まえた討議をしないことには,大学の問題についても,目先というか,間近にみえる範囲内での議論しかなしえず,本日のこの記述とすれば,日本の大学問題を,より肝心である「長期的な観点からするための議論」にもつながらない。

 現状においてすでに,日本の枢軸を構成する旧帝大系のいくつかの大学では,完全に大学の「学問の自由・言論の自由・思想の自由・信条の自由」を踏み潰そうとする悪改革が進行しだした。

 かつてはノーベル賞の受賞者をけっこうな人数輩出してきた日本であったが,四半世紀あとになるころまでには,おそらく,最近のはやり用語である「衰退途上国:日本」の惨状を晒すだけの国なってしまうのか?

 安倍晋三の第2次政権,つまり2010年代からのこの国は,完全にダメだらけの国,韓国立国しか生きる道がないかのごとき非一流国になりつつある。そこへ大学そのものも研究体制にまともな自由を与えず,独裁国家風の強権政治でもって軍事面しか意識しえない政治屋がのさばりはじめた昨今,このニッポン国は,20世紀後半の一時期に体験しえた経済大国「観」の思い出を懐かしがるだけの小国になるのか?
 
 もっとも石橋湛山の「小日本主義」を理解しようとする自民党の政治屋は誰1人いない。いまの日本政府が意欲しているのは「大日本主義」であるから-とはいっても大日本帝国主義の復活は,しかし対米服属国の立場のままではとうてい無理なのであるが-,戦前の体制しか想起させないのは,政治の貧困というよりは,世襲政治の賜物かもしれない。

 21世紀の第2四半期からは,この国からノーベル賞の受賞可能な学究・科学研究者を輩出させることは,マスマス困難になる。

 自民党内には「雑魚に相当する国会議員としての選良」ならばウヨウヨいるようである。彼・彼女らは,自身がまともな選良であるべき矜持よりも,ひたすら「千両箱」にしか関心のない「賤悪的な彼ら・彼女ら」の連中ばかりになりはてている。

 自民党は最近,「政治刷新本部」を発足させその初会合を開いたさい,岸田文雄は総理大臣として,国民への信頼回復に向けて党改革に全力で取り組むなどと,その刷新によって一掃されねばならないのが,ほかからならぬ「自分たちであったという〈当然の事実〉」は棚に上げたまま,脳天気を装ってまたもや国民たちをだますつもりである。

 そうした自民党政権の時代が長くつづくうちに,大学の倒産の問題が大いに話題になるなかで,すなわちまた,18歳人口そのものがどんどん減っていくなかで,この国じたいが亡国への走路をひた走りする姿ばかりが,大学問題の向こう側にもはっきりみえている。

 たとえばその兆候を端的に表わすのが,大学院進学率の低迷であり,とくに博士課程(後期課程)への進学者が伸びていない。これは,主要な国々に比較すると非常に顕著な,「日本の大学の問題全般」にかかわる具体的な課題であり,観過しえない兆候である。

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