見出し画像

原発は小型原子炉型(SMR)を増やして利用すればいいという企図は,実現させうる以前にすでに破綻

 ※-1「【共同声明】国際協力銀が出資する,ニュースケール社の小型原発計画が中止に」『原子力資料情報室』2023年11月10日,https://cnic.jp/50119 の批判は

 原子力を電力生産に利用していくエネルギー政策の根本的な無理は,元来コスト面からして破綻していた点からも明白であった。

 さて,原子力資料情報室は「CNICからのお知らせプレスリリース」としてであったが,2023年11月10日,「国際協力銀が出資する,ニュースケール社の小型原発計画が中止に」という見出しのもと,その「問われる公的金融機関の説明責」と題して,つぎのように論説していた。

   ◆ NPO法人原子力資料情報室-国際環境NGO FoE Japan ◆

 日本の政府系金融機関・国際協力銀行(以下,JBIC)が出資する米国の NuScale Power(以下,ニュースケール)が,米西部アイダホ州での小型原発の建設計画を中止することを発表した。

 JBICは昨〔2022〕年4月,日揮ホールディングス株式会社および株式会社IHIとともにニュースケールに出資していた。JBIC出資額は 1. 1億ドル。今〔2023〕年9月には出資分の一部を中部電に譲渡していた。いずれも Japan NuScale Innovation, LLCを介しての出資である。

 JBICの出資のさい,私たちは「小型モジュール炉(SMR,Small Modular Reactor)という新たな装いをしていようとも,ライフサイクルにわたる放射能汚染,核廃棄物,事故リスクにくわえ,テロや戦争のターゲットとなるリスクなどの問題を抱えていることは,従来の原発となんら変わりはない」点を指摘。
 また,経済性が喧伝されるSMRが,実際には単位発電量あたりのコストはむしろ増加する点をあげ,リスクが高いSMRに対して出資すべきではないことを主張していた。

 一部報道では,今回の計画中止は,インフレや金利高による建設費増が要因だと指摘されている。しかし,私たちは,SMRのもつ経済的脆弱性が明らかになった結果であると考えている。

 ニュースケールは今年1月,今回中止となった小型原発建設計画の目標単価を2021年に発表した58ドル/MWhから89ドル/MWhへと引き上げた。これは単価にしておよそ30ドル/MWhの政府補助金を差し引いた額のため,実質単価は119ドル/MWhになる。

 米国の蓄電池付き大規模太陽光の単価は2022年時点で45ドル/MWh,2030年には25ドル/MWhまで下落するとみられている。ニュースケールのSMRにコスト競争力がないことは歴然としていた。

原子力資料情報室

 以上,原子力資料情報室の小型原子炉「構想」に対する批判は,従来の出力100万kW時をほぼ標準型としたごとき性能の原発から,より小型の原発に原子力発電の方式を移行させようとする企図を,まっこうから批判するものである。

 

 ※-2 原発の大事故がなんども記録されてきても「懲りない面々が蝟集する」原子力村の反人類的・非人間的な反「技術の発想」

 原発はその当初から「偽りの神話的な定説」,「安全・安価・安心」という3点からなる虚説を最大の売り(セールスポイント)にしてきた。だが,

  スリーマイル島原発事故(1979年3月28日)
  チェルノブイリ原発事故(1986年4月26日)
  東電福島第1原発事故(2011年3月11日)

 という具合に,世紀をまたがり大事故を起こした履歴をもって,そもそもが原爆の製造技術の応用でしかないこの「原子力発電」という電力生産方式の「本来的に高い原価性」が,結局,露呈されざるをえない記録を刻んできた。

 最近になったようやく公刊されだした「原発会計」方面の問題意識は,とくに「廃炉会計」に焦点が向けられるほかない原発事情を,当然の大前提に置いた経済会計学的ないしは社会会計的な研究志向の立場を採り,原発問題全体の非経済性じたいをとりあげ,これを議論するほかない必然的な方途を明示していた。

 金森絵里『原子力発電と会計制度』中央経済社,2016年,同『原子力発電の会計学』中央経済社,2022年は,原発問題の全般を会計研究の対象にする場合,これまではあえて「廃炉事情を実質,棚上げしてきた」その理不尽に挑戦した著作である。

 途中であるが,その金森絵里の2著をさきに,紹介しておく。アマゾン通販を借りての紹介である。

 原発の問題はすでに外部経済の問題,公害被害の問題を必然的にもたらすほかない悪的な運命:宿命をかかえて誕生させられていた。つまり,それは,エネルギー利用の方式としては「邪道も邪道」であった。「原子力工学を専攻した専門家」の立場からいっても,その「蛇の道は蛇」というたとえでも表現したらよいような,その原発の非常なる危険性は,もとから重々承知の事項でありえた。

 

 ※-3 熊取六人組 

 だから,もともと原子力工学を学生時代が学んできたけれども,原発の怖さを知悉した「熊取六人組」とのちに呼ばれるようになったある研究者たちは,「原発に反対する立場」をとったがために,自分の職場や地位を剥奪されるまでは至らなかったとはいえ,体よく「京都大学原子炉実験所」(この名称は2018年3月のもので,現在は「京都大学複合原子力科学研究所」)と称する大阪府泉南郡熊取町に所在する研究機関に押しこまれた状態のなかで,自分たちなりに「反原発体制の思想」を実践する研究をおこない,その成果も公表してきた。

 すなわち,原発を研究すればするほど,この危険を充満させた発電装置の存在じたいが,ましてや電力を生産して利用するといったエネルギーの獲得方法となれば,基本から反対せざるをえない立場を,あえて「熊取六人組」は選んでいた。

 岩波書店から2013年3月15日に『熊取六人組-反原発を貫く研究者たち』という書名を付けた本が公刊されていた。本書は,原発の安全性を問いつづける「熊取六人組」,その反原発を貫く信念と誠実な生き方を綿密な取材をもとに綴っている。

 彼らは,いわゆる御用学者とは対極的に長年,「原発の安全性を問う」立場で研究を続けてきた研究者である。京都大学原子炉実験所の今中哲二・海老澤徹・川野眞治・小出裕章・小林圭二・瀬尾 健の「熊取六人組」であった。

 補注)ウィキペディアの解説によれば,海老澤,川野,瀬尾の3名は物故者となっている。

 この本『熊取六人組-反原発を貫く研究者たち-』は,それでも2011年3月11日に発生した東電福島第1原発事故の2年後に発刊されていた。この21世紀日本における悲惨な記録として残された原発大事故に対しては,この六人組以外にも必死になってその危険性を訴えてきた人物がいた。

  なかでも有名な人物は高木仁三郎,そして広瀬 隆がいた。この2人は20世紀のうちに原発の悪魔的な危なさを繰り返し訴え,その廃絶を要求してきた。

高木仁三郎紹介
 

 高木仁三郞は,原子力村から巨額の資金援助を受ける見返りに,原発反対の思想を撤回させることを要請されたが,高木は断わっていた。広瀬 隆は原発の安全神話を逆手にとらえて,それほど安全な原発ならば東京都のど真ん中に原発を建設せよと要求した。

 広瀬がその場所をまさか皇居内にせよといったとまでは聞いていないが,以前盛んに高揚されていた安全神話は,皇国史観の神武天皇「実在説」すら上まわるほどに「神話的な確信」をこめて提唱されていた。

 

 ※-4 原発の大事故に懲りない連中がのさばるうちにこの地球の環境が破壊されていく現状

 しかし,アメリカの原発事情を思いだすと,1979年3月のスリーマイル島原発事故の発生を機に,原子力エネルギーに対する恐怖感が蘇ってきたらしく,その後において原発の新増設工事は,完全に〈下火〉となる時期に移行していった。

 【参考記事】-日経「原発路線」の解説として読むべき記事-

 かつて「原子力ルネサンス」が起きた時期があった。それは,2000年代に米欧を中心に巻き起こった「原子力発電を再評価する動向」であった。

 1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故などを受けて停滞気味となってしまった原子力開発を,当時,エネルギー需要の拡大や環境問題などを背景に,建設計画が相次ぐことになった。

 2022年8月であったが,岸田文雄首相は政府のGX実行会議で次世代原発の開発と建設を検討するよう指示し,従来の方針を転換した。プラントメーカーは安全性を高めた大型軽水炉や小規模な原発に向く小型モジュール炉(SMR)といった新技術のアピールに力を入れはじめた。

 註記)斉藤壮司「〈記者の眼〉原子力ルネサンス再来の兆しも,足元揺らぐ日本の原子力産業」『日経Xテックス』2022年11月28日,
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00138/112501169/ 参照。

参考記事

 また,旧ソ連の原発事情をみるに,1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故は,社会主義国家体制を基盤から崩壊させる原因にまでなっていった。そして2011年3月11日,日本で,東日本大震災とこれによって惹起された大津波を原因にする東電福島第1原発事故が発生した。

 以上のごとき「正⇒反⇒合」的な流れとしても理解できそうだが,それぞれ発生してきた原発の大事故は,アメリカとソ連の事例の場合は基本において〈ヒューマン・エラー〉がからんでいた。しかし,日本の事例は自然災害である地震・津波が大事故を起こさせる引き金になっており,これが事故の主因であった。

 要するに,原発はエネルギーを獲得するための方法としてはすでに「大失敗の結末」を体験してきたゆえ,これを小型の原子炉を使った原発に代えて開発するのだといった「技術経済的な発想そのもの」が,すでにオワコン(終わったコンテンツ:用済みの概念)の申し立てになっていた事実を,しかと認識しておかねばなるまい。

 従来型の原発についてもとくに,事故発生時に即応した工学技術的な装置が案出・工夫されていないわけではない。ところが,その種の技術的な対処法は,終始,枝葉末節の手当であった点に変わりはなく,原発そのものの危険性を基本的に回避したり防御したりする働きは,もとより期待できるそれらではなかった。

 人類・人間たちが原発というものを利用してきた結果,その中途や終了にともない発生する外部費用,埋没原価ならびに社会的費用などは,それもたとえば東電福島第1原発事故現場の惨状を観れば分かるように,いったいいつまで,どこまでその「原発事故処理会計」--これは廃炉会計とは別の種類となる経済会計・社会会計の課題だが--が必要でありつづけるのかさえ,いまの段階では未知のままである。

 ただコスト(その費用・経費)のみを,それこそ無限大に要求していくかという「事実に関する未来への見通し」は,これを考えただけでも末恐ろしい事態になっている点は,いまのところまででもすでに,たっぷり思いしらされてきたはずである。

 ※-4「『夢の小型原子炉』開発が頓挫,日本企業も100億円以上を出資 そもそも実現に疑問の声も…」『東京新聞』2023年11月18日 12時00分, https://www.tokyo-np.co.jp/article/290726 の報道が,

 以上の述べたなかで触れたSMR(小型原発)について,つぎのように批評していた。本日から3日前の報道であったが,まっとうな批判点を挙げて解説していた。この記事は全文引用すると長くなるので,前文は全文紹介しておくが,あとは見出しと必要に応じて紹介しておきたい。

 --次世代の小型原発「小型モジュール炉(SMR)」開発を進める米新興企業ニュースケール・パワーが米アイダホ州での建設計画を中止した。

 「安価で安全」という触れこみのもと,米国初のSMR建設計画として注目されたが,世界的なインフレで採算がみこめなくなったという。同社には日本企業も出資。日本政府もSMRに肩入れするが,そもそもの実現性や経済性に疑問符が付いた。先行計画の失敗はなにを意味するのか。

 ◆-1「安くて安全」のはずが,資材高騰で採算合わず(⇒ 本文全部の引用は避けて,気になるつぎの段落のみ引用する)

 この◆-1では,「太陽光や風力など気象条件によって発電にムラが出る再生可能エネルギーの電力を,SMRの発電でバックアップすることで完全な脱炭素電源をめざ指しており,SMRが実現すれば米国初の案件だった」と『東京新聞』は書いていた。

 だが,そもそもの話,「原発そのものが脱炭素電源」になるといった虚説を批判しないのはおかしい。事故を起こした原発はむろん,小規模の原発だといっても,これが格別に脱炭素だといったごとき従前の誤謬を反復しているようでは,これは「お話にならない偽話」であった

 思いだしてほしい。だいぶ以前は「原発は炭酸ガスを出さない」と断言していた原子力村の発言が,その後「稼働している原発は炭酸ガスを出さない」に食言的に変節した。

 だが,原発の建設期間のおよそ10年や,その廃炉にかかる半世紀以上もの期間には炭酸ガスを出しっぱなしになる事実は,あえて触れるまでもないほどに当たりまえの事実であった。

 仮に稼働期間を60年にした原発であっても,稼働していなかった(しなくなる)期間のほうが,より長期間になるのが原発の命運であって,これほど後始末にやっかいな発電装置・機械は,ほかにはない。

 おまけにというよりは,これがまた肝心な案件であるが,放射性物質の汚染物として排出される各種の廃棄物の処分が,そもそも大問題であって,いまだにその最終処分場どころか中間処理場すら,ろくに適地(?)が定められていない。だから「トイレのないマンション状態」がウンヌン〔安倍晋三流にいうと「デンデン」〕されつづけている。

 「原発は炭酸ガスを出さない」と確言した原子力村の発言がその後,「稼働している原発は炭酸ガスを出さない」などと,だいぶ自信なさげに変更した内容は,原発が建設(新増設)のために費やす期間,そして廃炉処分になった原発がそれぞれ費やしていく期間などを,「歴史において刻む時間の経過」として観るとき,そうした食言的に「変更した発言」のなかにひそむ『原子力事情の怪しさ(妖しさ)』に気づかない人はいないはずである。

 ◆-2「技術は商用段階」と意欲も市場は懐疑的,株価は8割下落

 (以前に省略あり),つまりは読んで字のごとくであって,「市場はSMRの実現性を懐疑的にみており,現在,ニュースケール社の株価は2022年5月の上場時から8割ほど下落している」との由。

 ◆-3 多額の含み損どうする? 「引き続き支援」の社も
 
 (省略するが)この指摘は会計的にはどう受けとめられるか? 事業経営の採算としては最悪の事態になっているのでは?

 ◆-4 ビル・ゲイツ氏も参入,「SMR」ブーム

 (省略するが,つぎの誤説の段落のみ引用しておく)
 
 日本政府も,脱炭素社会の実現をめざすGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で,新増設を念頭に置いた次世代原発の候補のひとつにSMRを挙げた。しかし,その実現性や経済性,安全性には,かねて国内外から疑問が投げかけられてきた

 ◆-5 小泉純一郎氏らは「根拠のない熱狂」とバッサリ

 (ここは省略せず以下に全文を引用する)

 小泉純一郎元首相が顧問を務める原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟(原自連)は昨〔2022〕年8月の提言で,SMRについて「根拠のない熱狂」と切り捨てた。その理由を,各国で開発が進むSMRの炉型は軽水炉や高速炉など数十あり,「(モジュール化の)量産効果によるコストダウンがみこめない」と指摘した。

 さらに,SMRは1カ所に小さな原子炉をいくつも並べる想定のため,「福島第1原発のような連鎖メルトダウン(炉心溶融)の恐れもありうる」と安全性にも疑問を呈した。

 NPO法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長は,SMRの利点とされるモジュール工法について,

 「米ウェスチングハウスの開発した大型原発『AP1000』でも採用されたが,工場での製造から現場での組み立てまで数多くの問題が起き,うまくいかなかった。結局,2基で350億ドル(約5.2兆円)と非常に高くついた。モジュール工法だから安くなるわけではない」

と話す。

 SMRも原発である以上,放射性廃棄物が出る。米スタンフォード大の核燃料研究者リンゼイ・クラル氏らは2022年5月,SMRの場合,大型原子炉で起こる物理反応の違いから「管理と処分を必要とする核廃棄物の量が2~30倍に増える」との研究結果を発表している。

 補注)この最後の指摘が興味深い。「小型原子炉」など余計に「造らないほうがよい」という反論が飛び出ていた。

 ◆-6 今後もコスト上昇… エネルギー政策転換の時期では?
 
 (ここも省略せず以下に全文を引用する)

 課題山積のSMRに限らず,「夢の新型原子炉」をめぐる開発は失敗続きだ。日本では高速増殖原型炉「もんじゅ」に1兆円を投じながら,トラブル続きで2016年に廃炉を決定。

 日仏共同で開発を進める高速炉実証炉「ASTRID(アストリッド)計画」に軸を移し,日本は約200億円を投じたが,2019年に仏側が計画凍結を正式に表明した。

 それでも経済産業省・資源エネルギー庁などは,SMRや高速炉を「革新炉」として開発継続を訴えている。また岸田政権も既存原発の再稼働や運転期間の延長など,原発回帰へと突きすすむ。

 しかし,環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長は「太陽光のコストは10年で10分の1に下がり,風力も3割下がった。再エネはもっとも安いエネルギー源で,今後もコストは下がる。かたや原発は遅延につぐ遅延でコストは世界的にうなぎ上り」と指摘し,エネルギー政策の転換を求める。

 「世界の本流は,再エネであり,蓄電池としても使える電気自動車だ。日本はどちらも取り残されている。SMRもそうだが,将来性のない原発にいつまでも固執すべきではない」

 ◆-7 デスクメモ

 小型というからには電気出力も小さくなる。仮に既存原発と同じレベルの電力を担わせるのなら,分散してそこら中に小型原発を造らざるをえなくなるだろう。だが,そんな原発建設に適した土地が,日本にどれだけあるだろうか。ちょっと考えれば無理筋と分かりそうな話なのだが。(引照終わり)

 

 ※-5 日本はまさに「トイレのないマンション」状態の原発利用体制のなかにある,にもかかわらず,今後もさらに原発の再稼働・新増設を推進するなどと,実に愚かなエネルギー政策にこだわっているのが「亡国の経済産業省」資源エネルギー庁

 原発を利用するエネルギー調達体制が,ある意味ではいかほどに破滅的な未来に向かっているか自覚(しようと)しないこの国である。現状のごときエネルギー政策の基本路線を続けていくのであれば,夢も希望ももてないどころか,この先には地獄みたいな原発事情をあえて引き寄せるハメとなる。

 以下に最近の『毎日新聞』『日本経済新聞』に掲載されたニュースと解説記事を,現物の画像資料として紹介しておきたい。

 1)「核のゴミ 自治体任せ 最終処分場 文献調査 3年」『毎日新聞』2023年11月18日朝刊2面「総合」

核のゴミはどこへ?

 2)「デブリ除去 3度目延期か 堆積物が塞ぐ炉内への道」『日本経済新聞』2023年11月2日朝刊2面「真相 深層」

デブリの取り出しはいつ可能になるのか
いまのところはさっぱり
分かりえない

 3)「『デブリ』採り出し暗礁 福島第1 穴塞がる 3回目の計画延期か」『毎日新聞』2023年11月16日朝刊22面「総合・社会」

暗礁に座礁したみたいな現状

 原発体制は日本の場合,「使用済み核燃料」の後始末のあり方そのものの問題からして,ゆきづまっていた。まさしく「トイレのないマンション状態」を余儀なくされてきた。「雪隠詰め」などいう日本的なことばがあったが,そのていどに生やさしい「クソまみれではない現象」に相当する事態どころではなかった。

 日本の原発史はこういう履歴があった。日本の原子力発電開発は,まずアメリカから導入した「動力試験炉JPDR(BWR)」が1963年10月26日に運転を開始したところから始まる。その後さらに,英国から導入した「東海発電所(GCR)」が1966年7月に営業運転を開始し,日本で初の商業原子力発電の幕をあけた。

 補注)JPDR(BWR)とは,Japan Power Demonstration Reactor の頭文字であるが,かつて日本原子力研究所が運転した日本初の発電用原子炉であった。また,BWRとは「沸騰水型炉(Boiling Water Reactor)」のことである。

 また,GCRとは Gas Cooled Reactor の頭文字であるが,天然ウランを燃料とする黒鉛減速炭酸ガス冷却型原子炉のことである。実用規模の発電用として世界でもっとも早い時期にイギリスで実用化された原発の機種。

補注

 さて,チェルノブイリ原発事故とこの周辺地域は現在,どうなっているのか?

 そして,東電福島第1原発事故とこの周辺地域は現在,やはりどうなっているのか?

 後者に即していえば,大津波が襲来してきた壊滅的な被害を受けただけの地域の場合は,その後,復旧は難なくできていて,それなりの現在が復活できてており,未来に向けて生きていける生活環境が回復できた。

 だが,爆発・溶融した原発3基から放出された放射性物質に高度に汚染された地域は当面,歴史的には全滅させられたまま未来など来ない。一度の原発事故が取りかえしの付かないほどの決定的な打撃を地球環境に与える。

 あなた,それでも原発を止めませんか? 

 いまは故人となった安倍晋三君は,第1次政権で首相の座に就いていたときに,原発には事故はありえないと断言していた。だが,その後になにが起きたか?

 この日本で東電が「原発の深刻かつ重大な事故」を起こした。発生してしまったのではなく,起こしてしまったのである。安倍晋三は首相として人間として数多くのウソを吐いてきた政治屋であったが,原発については〈究極の大ウソ〉をついた。

 東日本大震災が発生したさいとなれば,15メートル以上もの大津波が来るかもしれないと予測された「科学的な予知」を,当時の東電最高幹部たちは理解していたにもかかわらず,これを無視し,排除した。そして「第2の敗戦」と意味するこの国:日本のイメージを,原発の大事故を介して固定化させた。

 2011年3月11日に,同じく高い津波に襲われた東北電力女川原発が,幸いにも大事故を起こさなかったのは,その津波に耐えうる防護壁を構築してあったからであった。

女川原発のバーチャル版概観
前面に防護壁

 東日本大震災時,女川原発も高さ13mにもなる津波に襲われた。 しかも,その大地震によって地盤が1mも地盤が沈下していた。 しかし,原発を囲む防護壁を,大津波の襲来がありうると想定した工事をおこない,14.8mの高さに建設していた。これによって,13mの津波に遭ったものの,1mの地盤沈下が生じていても80cmの余裕を残して耐えた。原発じたいは,事故を起こすことなく安全に停止させることができた。

 東電福島第1原発事故も,結局,人災であった。

 島崎邦彦『3・11 大津波の対策を邪魔した男たち』青志社,2023年3月という本があった。また,刑事罰に問われなかった東電の幹部たちについては,河合弘之・海渡雄一・木村 結編『東電役員に13兆円の支払いを命ず! 東電株主代表訴訟判決』旬報社,2022年10月という本が,民事の裁判でこの結論が出ていた事実を解説している。

 河合弘之たちが編集した後著は「福島第1原発事故は防ぐことが可能であった!」と強調している。

------------------------------


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?