「広告と性」の関連分析
本日のこの記述は「『広告と性』の関連分析」という標題をかかげたが,議論として主に関心を向けるところは,「マーケティングにおける人間『性衝動』の活用問題」にある。
専門的な用語を充てて別様にいうとしたら,「広告心理学への精神分析学的な思考回路を応用すること」が,企業営利の観点において活かされるかたちで,実際にその効果が期待されている論点がそこに実在する,とでも表現できる。
※-1 宮沢りえ「出演」の全面広告が2013年4月18日・19日の『日本経済新聞』に登場していたが,その前に箱崎総一『広告と性-宣伝の精神分析-』ダイヤモンド社,1967年の中身にふれておく
『日本経済新聞』2013年4月18日と19日に『JINS CLASSIC』社の全面広告が出ていた。これをみた瞬間ただちに,フロイトの精神分析論を想いだしたのは,あまりにも当然,かつ自然であった。
本ブログ筆者の手元には,いまから57年も前に出版されていた,箱崎総一『広告と性-宣伝の精神分析-』ダイヤモンド社,昭和42〔1967〕年)という本があった。新書版であった。
読者にはあえて,予備知識としての《予断》を意図的に与えてしまうつもりで,この本のなかに解説されていた,それもズバリ的中の写真と図解を,さきに紹介しておこう。
まず,レブロン社が口紅「モイスチャー」の宣伝・広告のために制作した写真と,これに対して『広告と性-宣伝の精神分析-』の著者が説明した図解である(136-137頁,146頁)。
つぎに,宣伝・広告用に制作された前掲のごとき写真そのものではなく,サルバドール・ダリの描いた「建築学的なミレーの晩鐘」という絵そのものに,話題を移して説明することなる。
箱崎総一『広告と性-宣伝の精神分析-』は,「性の精神分析的な解説」のために挙げられた実例として,それ用に適当な説明が付けられうる絵画として例示されていたのが,この写真(これは原色のものを他所から用意した)であり,さらに,その説明のために作成された分析用の図解(線図)も提示されていた(111頁,113頁)。
つぎに挙げる画像は,アメリカの商業写真家アーヴィング・ペン制作なる「メイ・キャップ」と題された作品である。特定の商品用に制作されたものではないらしいが,商業写真としてもつべき〈深層心理への働きかけの要素〉という面からみれば,実に優秀な作品である。この写真では,唇は半ば開かれている。
すなわち,深層心理 のシンボルの次元においては,これらの陰唇は開いて-つまり膣は開いて-おり,受入体制はすべて十分なのである。その女性セックス・シンボルに接触したか たちで,男性のセックス・シンボルである紅筆が置かれてある。つまり,深層心理的には非常に衝撃的な光景なのである(125-126頁。写真は,124頁,125頁)。
以上に紹介してみたが,これらの画像について,箱崎総一『広告と性-宣伝の精神分析-』が理論的に試みた分析・説明は,そのいわんとする核心はおよそ理解できる。
※-2 宮沢りえをモデルに採用し,広告を出稿させた『JINS CLASSIC』社の広告戦術
この※-2では, メガネ販売会社の『JINS CLASSIC』社が『日本経済新聞』2013年の4月18日・19日に出していたものだが,宮沢りえを使ったこの広告を紹介しておく。
「宮沢りえ:ポーズ1」
な,お当時の『JINS CLASSIC』社のホームページ「表紙」には,宮沢りえが演技しているその動画(ビデオ『JINS CLASSIC CM (宮沢りえさん 30秒バージョン)』)も掲載されていた。
ただし,それは2014年8月25日現在ですでに,ほかの画像に代わっていて,事後は参照不可になっていた。つぎの指示されていた註記のリンク先・住所も現在は削除されており,残念ながら参照できない。
註記)http://www.jins-jp.com/st/jinsclassic/
「宮沢りえ:ポーズ2」
以上のごとき広告・宣伝用に制作され公開された内容・中身(コンテンツ)について考えてみたい。
ジークムント・フロイト大先生の精神分析によれば,このように前後につづく画像は,とにかくひたすらにというかもっぱら,男女間の性交渉を示唆していた。四の五のいうまでもなく,そのものズバリの情景を意味するものであった。
すなわち,まったくそのとおりの状況をしていた。ヨーグルト状の液体は男の精液と女の愛液を同時的に示唆すると解釈してよい。つぎに挙げる画像は,宮沢りえがスプーンを裏返しにして口に近づけている。
「宮沢りえ:ポーズ3」
つぎのこの構図が意味するのは,スプーン=ペニスであれば,そのとおりの「意味を意味する」にちがいないので,具体的に表現するのはヤボなので,ひとまずいわないでおく。
つぎにまた,どうしてこういう( ↓ )ふうに,当該会社のこの「宣伝文句」⇒「メガネ安売り店」の名前と値段が出てくるのか解釈に困る。こうなる,必らずしも,『JINS CLASSIC』社のメガネでなくても,なんでもかまわないのではないかという印象すら受ける。
いくらか混ぜっかえしていうと,彼女の足下に空気清浄機でもおけば SHARP の広告になるし,足下で自動掃除機ルンバが動きまわる構図にすれば,アイロボット社の広告になる。
製品(商品)と宮沢りえがつながるべき必然性が「希薄な広告」であったとしか解釈できなかったが,それでもともかく,なんでもかんでもいい,この女優の色気・女性「性」(ジェンダーのことだといったら,どこかの大学の女性教授に叱られるか?)でもって,このような宣伝・広告を打っていたのが,『JINS CLASSIC』社であった。
さて,それではその会社(『JINS CLASSIC』社),なにを売っていたかといえば「メガネ」でしたという程度で,その連想はきわめて希薄。
この「指摘としての話題」は,ひとまずいまから10年以上も前のものであったので,現在となってはかなり異なった「社会認識」がありうる。その点は,以上に紹介していた宣伝・広告が評判をとれれば,その連関性に現実味が明確に生れないのではない。
補注)最新に関連する情報としては,たとえば,つぎのリンク先・住所をのぞいてみるのもいいかもしれない。
もともと,その方途を狙った宣伝・広告だとも理解できる。どうみても,宮沢りえがかけているメガネは,かわりばえがせず,なんとなく古臭くもみえ,ダサかった。もちろん,この意見は個人的な好みが介在してのいいぶんである。
もちろん,その評価はひとそれぞれであり,またメガネに関しても流行があることは事実である。メガネを販売する会社じたいが,その流行を新たに創りだす戦術をひねり出すためであれば,それこそ必死になって経営努力をしている。
ところで,宮沢りえが着ていたワンピースを,ドン・小西にでも批評してもらうには,ちょっと専門違いという感じがないわけではなかった。かといって,著名な女性デザイナーに一言いってただけるようなワンピースにもみえない。ここまで断言したらいいすぎになるか?
ところで『 Girls Channel ガールズちゃんね-女子の好きな話題でおしゃべり♪ -』というブログが,本ブログの関心とはまた別の興味があってと推測しておくが,芸能人宮沢りえを広告用のキャラクターとして採用し,活かそうとする方途で制作していた『JINS CLASSIC』社のCMをとりあげ,話題にしていた。
読者はすでに,だいぶ前の段落ですでに気づいていたと思いたいが,その『 Girls Channel ガールズちゃんね』の記述(画面)を紹介した画像は,すでに前段に紹介してあった。
註記)「宮沢りえが黒縁メガネで誘惑神気1年分使った』…メガネショップ『JINS』新CM」『 Girls Channel ガールズちゃんね-女子の好きな話題でおしゃべり♪-』2013年4月21日 13:08,http://girlschannel.net/topics/15813/
※-3 広告心理に関する精神分析学
ここで,箱崎総一『広告と性-宣伝の精神分析-』ダイヤモンド社,昭和42年に戻り,その所見をしばらく引用・紹介していく。
1) 精神分析学を応用する宣伝・広告手法
「精神分析的な意味の差をここで深く考えねばならない」。「つまり,深層心理にある本能の性質を明らかにすることが,これからの宣伝にはぜひとも必要なものとなってくる」(20頁)。
あらかじめ指摘しておくと,今回の『JINS CLASSIC』が宮沢りえを採用した広告は,精神分析学の理論背景をよく踏まえていることをうかがわせるかのように思わせると同時に,これとはまったく相反するかのようにも感じさせる〈ほかの広告〉もおこなっていた。これはあとに論じたい。
「宣伝という名の怪物が生み出す」「幻のイメージのなかに現代人は迷いこんでしまっている。そこで,この迷路のなかから正しい方向を発見するためのコンパスとして精神分析が登場してきたわけである」。
「記憶のなかに歪みがあるままで物事を判断すると,そこにズレが生じてくる。精神分析的にみると,この心理のズレは,それぞれの性格の特徴をよく表わしている」(28頁)。
なかでも「セックスは人間の深層心理のかなで強力な作用をしていることはフロイトの発見によってしられている。つまり,これを目立つ広告に利用しようというのだ」(77頁)。
とくに「宣伝を作りあげる男たちには,消費者よりもつねに1歩先を歩くことが要求されているし,彼らの作りあげる幻想やエロティックな夢想にしたがって,消費者の心は自由自在にあやつられているといってもいいすぎではない」(83頁)。
下の画像資料は,ジークムント・フロイトである。
「宣伝を制作するには,夢想家であり社会学者であり,精神分析家であることが要求されるといっても過言ではなかろうか」(83頁)。
それなのに「私たちは,いままであまりにもセックスに関して消極的な考えかたをしてきたのではないか--という疑問がわきあがってこざるをえない。セックスの本質なるもの,それは習慣や常識や,功利的な社会への適応などのすべてにとらわれず,私たちを新しい未知の世界の冒険へ導いてくれる。人類の進歩や新発見の源を作るエネルギーをセックス・エネルギーから分化したものである」(84頁)。
「精神分析的にいうと,セックス・エネルギーとは生命力のエネルギーそのものと同じ意味として用いられているわけなのである」(86頁)。
「エロスへの誘惑にかこつけて,宣伝の良識では消費者の性格作りのためのいろいろなトリックがおこなわれていることをしっておいてもよいだろう」(88頁)。
※-4 マーケティング戦術としての宣伝・広告の方法
マーケティング戦略の初歩の話となる。
「コマーシャルがあなたに話しかけ,コピーが物語る〔今回の宮沢りえ出演のコマーシャルでいえば〈動画が語りかける〉〕とき,それが男性に対してか,女性に対してかあるいは壮年者一般に向けられたものであるかは,だいたい想像できるはずである」
「こうした区分をつけることによって,それぞれの消費者の層をガッチリつかもうとしているのである。つまりこれがマーケット・セグメンテーション〔市場細分化〕なのである」(90頁。〔 〕内補足は筆者)。
「消費者が王様であったのは過去のことで,現在の消費者は宣伝の命令にしたがって働く召使ではないだろうか。そこで消費者としてのは,宣伝のカラクリをよくしることによって,それと対決しなければならないことなってくる。宣伝をおこなっている企業の立場から,それは困ることなのだ」(93頁)。
「セックスのアプローチを用いるばあいには,商品についての精神分析を綿密におこない,計画的に宣伝の目的に使用された場合には,本当に人びとの心の深層に共鳴作用を引き起こしてくる」(93-94頁)。
「性的なくすぐりによって,私たちは宣伝の影響を深層心理まで受けてしまう。それは私たちの本性をもゆるがすほどの強力な作用をもっている。しかし,その影響力は私たちがほとんど自覚しないうちに現われてくるから不気味でさえある」
「ひとたび,こうした宣伝のもつ力に気づいたとき私たちは名状しがたい恐怖にとらえられてしまう。すると,態度をガラリと変えて,必死になって広告を攻撃しはじめることになる」(96-97頁)。
以上(前段)のごときに観てみた 『JINS CLASSIC』社の全面広告は,はたしてどのように評価されておけばよかったのか?
要は,今回,宣伝・広告用の「性の表現態」:セックス・シンボルとして,宮沢りえが起用されていた。問題は,この女優によるこの広告をみて,いったい人びとがどのように・なにを感じたか,である。
とりあえず男性の側からみていえば,それこそ「セックス・シンボル」性が過剰なまでに濃厚であった女優のマリリン・モンローやブリジッド・バルドーのように,やたら妖艶なる雰囲気をバラまくというか,意図的に色気をムンムン発散させる女優ではないのが,宮沢りえ。
とはいっても,人によって感じかたは多種多様,たで食う虫も好き好きなので,逆にもに感じる〔宮沢りえのほうが(もっと)いい〕といわれる向きもあることも認めねばならない。それゆえ,ここでただちに決定的な判断はせず,留保しておいたほうが賢明。
それはともかく,『JINS CLASSIC』社の全面広告は「メガネ販売のために」宣伝されていたものである。こちらの問題としていえば,今回のこのような宣伝・広告の方法でもって 「メガネ」の販売向上を狙い,「セックス」効果による精神分析的な関連づけを,つまり,消費者側の深層心理に同社のメガネに対する購買意欲を喚起・高揚させえて,有意な効果を,いかほど反応として引き出せるかどうかである。
『JINS CLASSIC』社のホームページ「表紙」には,宮沢りえの宣伝動画と並んでリリー・フランキーのそれ( ↓ )も公開されていた。こちらの動画を観ると 「?」という印象である。なぜ,そのように感じられるかは,性的要因(動因)に関する人「並み以上」の理解力があれば,ここまでの記述を踏まえてすぐに察知してもらえるはずである。
仮にこちらの宣伝動画が「女性用」だとしても,精神分析学的に判断すれば「道具立て」:「小道具の使いかた」が整合的ではない。「整合的でない」という指摘した論点について,もっと「突っこんで」話をしてみたい気持もあるのだが,脱線してしまいそうなおそれがあり,止めておくことし た。
黒人差別だといって使用されなくなった( ↑ )カルピスの「商標登録」があった。黒人がストローでカルピスを吸っている,上にかかげた「この絵」(商標登録)がそれである。ところで,この絵(画像)を借りたホームページの主人は,こう主張している。
カルピスの,この黒人を描いて制作された商標登録(前掲画像のこと)については,つぎのような意見も示されている。
こちらの〈絵:黒人マーク〉は本来,カルピスという飲料がおいしいものだという好印象を消費者に抱いてもらい,購入してもらおうとする狙いが込められていた。
しかしながら, 『JINS CLASSIC』社が,宮沢りえの宣伝動画に並べて公開していた,男性:リリー・フランキーのそれがみせる「ストローでなにかのリフレッシュメント」を飲んでいる図は,お世辞にも,さまになっていなかった。
ここまで話が進んでくると,なんの宣伝のための広告だったかが分からなくなりそうになった。メガネの販売のためであったが・・・?
つぎの画像は余談的な話題となるが,宮沢りえがらみで「みのがせない」ひとつ。
ところで,カルピスの “初恋の味” というキャッチフレーズの由来は?
創業者 “三島海雲” の知人である駒城卓爾(コマキ・タクジ)の
『甘くてすっぱい「カルピスは “初恋の味” 」,
初恋ということばには,人びとの夢と希望と憧れがある』
ということばに由来するという。1922〔大正11〕年4月の新聞広告に使用したのが始まりである。
最後に,宮沢りえの以上の広告に魅力を感じた人でも,とりわけ男性は,前掲した田中ヒデとのこの写真のシーンをみたら,その宣伝効果を大幅に引き下げられてしまう〈なにか〉が入りこむことになるかも……。このことは,かなりの程度,確実に〈請けあえる話〉。
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