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かつての推しへ

※この記事では芸能人のゴシップ、引退について取り扱います。苦手な方はご注意ください。






かつて応援していた俳優がひっそりとゴシップ記事に取り上げられ、恐らく引退したということを知ったのは、そのゴシップ記事が取り上げられてから半年経った頃だった。

「恐らく引退した」と書いているのは、彼の名前のSNSアカウントで引退する旨が書かれているものの、彼の事務所HPも彼個人が運営していたSNSもすでに削除された夜逃げ状態のため、引退を表明しているそのアカウントが本当に本人のものであるのか確証が持てないからである。

何故それを知るのに半年もかかったのかと言えば、単に私自身がゴシップというものが苦手で見ないようにしているためと、当時は再就職のための準備で忙しかったためだ。


ゴシップ記事の存在を知ったその日は、たまたま近頃音沙汰のなくなった推しの近況を知りたいがために、その名前をインターネットで検索していた。
少し前にHPもSNSも削除されていたことは知っていたが、もしかすると自分の知らないところでひっそりと活動しているのではないかという期待が僅かにあったのだ。

検索結果のトップに出てきたのはWikipediaの記事。
そしてその次に出てきたのが、件のゴシップ記事だった。



彼を初めて見たのは、かねてからの友人に勧められて見た舞台作品のDVDだった。もう九年近く前になる。
「絶対にこのキャラクターが好きだよ!」
十年来の付き合いである彼女がそう言って勧めてくれたキャラクターを演じていたのが彼だったのだ。

そのキャラクターは、確かに私の目には魅力的に映った。
特に歌唱力が凄まじく、ミュージカルやその類の音楽が好きな私は彼の歌声にとても惹かれた。
その作品をきっかけに、彼の出演する作品や個人のライブに通うようになった。

更に彼のファンの方たちとSNSで交流するようになった。
皆優しくて良い人たちで、中には現場以外でも遊ぶ、友人と呼べるような間柄の仲間もできた。
ファンの方以外にも、作品を最初に勧めてくれた友人や私の当時の熱量を見ていた友人たちが一緒に現場に足を運んでくれて、彼の演技や歌声に感想を述べてくれる時間もとても楽しかったことを覚えている。

記事を目にしたとき、一番最初に思い浮かんだのが彼女たちのことだった。



優しい人たちと縁を結んでくれたのは彼だった。
だから、その記事を読んだ当初の私の心境は、縁をくれた彼に感謝が大きかった。

けれどそれも長くは続かず、翌日には悲しみが追いかけてきてやっぱり落ち込んだ。記事の内容が内容なだけに、怒りも沸いてきた。自分では到底理解できない内容なだけに、意味が分からなかった。

記事を読んだかもしれない過去の優しい人たちの心境を思うと酷くつらかったし、一緒に観劇する時間を割いてくれて楽しかったと笑ってくれた友人たちには愚痴と称しても言えなかった。

彼の所業のために、当時彼が出演する予定だった作品では多くの人たちに迷惑がかかっていたことも分かって、苦しかった。

彼の出演していた作品のDVDやパンフレット、個人のブロマイドを整理した時のやるせなさは経験したことのない感情で、二度と経験したくないとも思った。

全盛期だった頃の熱量ほどでなくても、自分が熱心になっていたものに裏切られることは端的に言えば最悪でしかないことを、初めて知った。



あれからまた数か月が経つ。
ゴシップ記事を読んだ直後ほどの負の感情はないけれど、心に余裕がない時に過去のネガティブばかりを思い返す自分は、輝かしい頃の彼ではなく記事に掲載されていた憎たらしい彼の姿を思い出すようになってしまった。

この感情はきっとしばらく私の心のうちに付きまとうことになるのは仕方がない。
いつか知らず知らずのうちに悲しい感情と折り合いがつくことを祈って、この記事を最後の届かないファンレターとしたいと思う。




かつて推していたあなたへ。

あなたにも、あなたを大切に思う人がきっといるでしょうから、酷いことは言えません。
ただ、願うことなら、あなたを応援していた優しい人たちの分だけ、どうかあなたにばちが当たりますように。

かつてのあなたのファンより。

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