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「ヴィョンの妻」を読んで

この本「ヴィヨンの妻」には、「親友交歓」、「トカトントン」、「父」、「母」、「ヴィヨンの妻」、「おさん」、「家庭の幸福」、「桜桃」の八篇が含まれています。どの短篇も記憶に残っている秀逸な短篇ですが、私は「トカトントン」の印象が強く残っています。

「トカトントン」は、第二次世界大戦で日本が無条件降伏し、青森市の生まれ育った土地に戻ってきた主人公が、郵便局に勤めるが、金槌で釘を打つ音が、かすかに、トカトントンと聞こえてきて、その音が聞こえると、魂を抜かれたように、何もやる気が起きなくなり、虚脱感でいっぱいになり、身動きができなくなる。この現象はたびたび、急激に起きる。この現象はなんですか、どうにかならないですか、と作家(太宰 治)に手紙を書いている形式になっています。ん、何かわかる気がします。私もバブル前の社会の価値観、バブル崩壊後の価値観、教育、社会システムが180度近く変わるのを見ると、何なのだろうと少し虚無感を覚えます。

太宰治の作品は読み易く、素朴な口語体ですが、心の隙間にすっと入ってきて、ずっと記憶に残るものが多いです。作品を読むと素直な気持ちにさせるものが多く、それも一つの手法、テクニックだと思います。後世に残る作品は、独自性があって、普遍的な人間の特性を表現、描写しているものなのだろう。

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