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生きづらいってこのことなのかな? コロナ禍、とある大学生のはなし①

 2021年4月、私は晴れて大学生となり食事つきの学生マンションに入居した。このマンションは家事に自信がない私に母が勧めてくれたもので、平日の朝夕2回食堂で食事が提供されることになっている。

 ちなみに私たちの代は、高3になる前の春に緊急事態宣言が発せられ、高校最後の1年をまるまるコロナと共に過ごした最初の代である。

 入居してから間もないある日、マンションのエレベーターに「4月〇日19:00~、食堂にて新入生歓迎会を開催します!」と書かれたチラシが貼ってあった。いっしょにボードゲームでもするのかな? そんなことを考えながら私は部屋に帰ってスケジュール帳に歓迎会の日時と場所とをメモしておいた。

 同じ学部学年の子はいるかな? 先輩とはどういうふうに話したらいいんだろう? 昨日すれ違った子、同じ1年生な気がするんだよね……などなどいろんなことを考えるうちに歓迎会当日となった。

 しかしながら私は、早々に歓迎会会場を後にすることとなった。その理由は、「コロナになりたくなかったから。」


  
 会場に到着するとまず、名刺くらいの大きさの紙と名前ペンを渡された。ガムテープで服に貼り付けて名札にするためだ。学部・学年・名前を書き、「もうちょっと大きく書けばよかったかな」とやや反省しつつ、流れに沿って進むとお弁当と割り箸を渡された。

ーーあ、これってお弁当を一緒に食べながら話す感じ? コロナって飛沫で感染するんだよね? 学生寮なんて感染者1人でも出たらおしまいでしょ? まあ、席が対面にならないように互い違いだからセーフか。

 会が始まるまでまだ時間があったので、ひとまず適当なところに座り、近くにいた人と軽く自己紹介をして、雑談をした。食堂にはどんどん人が入ってきて、用意されていた椅子の数では足りなくなった。すると寮母さんと声をかけられた数名の男子学生が食堂の奥から十数の椅子をもってきて、元からあった椅子と椅子の間に置いていった。私の心はだんだんそわそわし始めた。

ーーあーもうダメじゃん。対面で食事なんてぜったいコロナになる。
でもここで友だち作っといた方がいいよね、急に会場から抜けたら変に思われるよね、でもコロナにかかったら元も子もなくなるよね、自分の命は自分で守らないと。

 私はついに歓迎会に参加することを諦め、どうやって会場を抜け出すかについて考え始めた。周りの人と会話が盛り上がっていたためなかなか抜け出せずにいるうちに、企画者からのあいさつが始まり「いただきます」の流れになった。
 このあと私は「コロナに感染しないために会場から抜け出そう作戦」を実行した。

「いただきます」をしても、マスクは外さず、「ちょっとお腹が痛くて」という理由でお弁当は開けない。

ーー本当は飛沫が入ってくるのが嫌だったから。

 しばらくしてから「腹痛がひどくなってきた」という理由(と演技)で、お弁当を持って会場から抜け出し、そのまま自室に戻ってくる。


 
 部屋に戻ってこれてほっとした私はひとりで泣いた。さっきまで食堂で起こっていたこと、いま食堂で起きていることがまるで信じられなかった。

ーー学生マンションだから感染対策は念入りにしてあると思っていたのに、マスクを外して話しながら対面でご飯を食べることが許されるのだろうか。みんなは感染してしまうかもしれないと思っていないのだろうか。どうしてコロナに感染してもおかしくない状況で平然としていられるのだろうか。

 私はこの日初めて自分の考え方が周りとズレていることを知った。



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この文章は、「#いまコロナ禍の大学生は語る」企画に参加しています。
この企画は、2020年4月から2023年3月の間に大学生生活を経験した人びとが、「私にとっての『コロナ時代』と『大学生時代』」というテーマで自由に文章を書くものです。
企画詳細はこちら:https://note.com/gate_blue/n/n5133f739e708
あるいは、https://docs.google.com/document/d/1KVj7pA6xdy3dbi0XrLqfuxvezWXPg72DGNrzBqwZmWI/edit
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