2024/08/20(火)命をかけるほどの思い。

ある日のことを、何度も思い出すんです。

ある日というの、2010年11月のある日のことです。その日ぼくは、西荻窪にある葉月ホールハウスで、「まど・みちお」さんの詩についての話をすることになっていました。

それで、たぶんそれは、人前できちんと詩の話をする、ということでは、初めてだったのではないかと記憶しているんです。

なぜか依頼を引き受けてしまって、それから1か月ほど準備をして、当日になり、会場に向かいました。

あと1時間もしたらイベントが始まるという時に、急に不安になってきたんです。会場から外に出て、しばらく歩いていたんです。つまり、ひどく緊張してきたんです。そばに大きな池があって、そのほとりに立って、「講演なんて、ほんとに自分にできるだろうか」と思ったら、いてもたってもいられなくなったんです。

どうしよう、と思ったんです。

その時の、不安で仕方がなかった時のことを、ぼくは繰り返し思い出すんです。

そのあと、時間が来て、できることはやったのですが、思い出すのは、やはり始まる前の、不安に満ちた時間のことばかりなんです。

それで、その後、ぼくは教室や講演を幾度もすることになるのですが、始まる前には、いつも同じ不安にさいなまれるのです。

その緊張はおそらく、自分の中に、詩についての、どうしても声でじかに伝えたいことがあって、だからうまくやり遂げたいという、思いが強いからなんだと思うんです。

ぼくが歳をとって詩の世界にもどってきたのは、詩の喜びと、詩の恐さを、ともに、自分の声で伝えたかったからなのです。

さて、今度の土曜日は「隣町珈琲」で、詩の教室があります。

もちろん徐々に、緊張し始めてきました。あの時と同じです。

ひとつひとつの話す機会に、大げさに聞こえるかもしれませんが、ぼくは命をかけているんです。

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