同人誌に入ってよかったと思う、一番のこと。

ぼくは20代で「グッドバイ」という同人誌に、創刊メンバーとして入りました。

もうずっと昔、1970年代のことです。

同世代の何人かで、一緒に詩を載せる雑誌を作ろうというのが、目的でした。

それまでぼくは、子供の頃から、ずっとひとりきりで詩を書いていたので、誰かと一緒に詩の活動をやるのは初めてでした。

ですから、ぼくの気持ちとしては、単に詩を載せるための雑誌に入ったのです。それだけのことだったのです。

確かに、詩を持ち寄って、お互いの詩について語り合い、刺激を受けあって、自分の詩の幅が広がり、深まったこともありました。

けれど、今思えば、同人誌に入ってよかったと思う一番のことは、詩だけではなく、評論や随想も書き始めるようになったことでした。同人から、そのきっかけをもらったことでした。

同人の島田誠一も三橋聡も、当時から評論を書いていました。

特に、上手宰の書く評論の緻密さと発想の豊かさには、毎回、読むたびに驚いていました。詩について書く文章とは、なんと感動的なものかと思いました。

上手宰の書く評論に胸をうたれて、若いぼくは、自分も、詩だけではなく、詩についての文章を書いてみようと思いました。

上手さんのように素晴らしいものは書けないかもしれない。でも、自分にも、自分らしい散文が書けるのではないか、と思いました。

それで、「グッドバイ」に「重い木」という八木重吉論を書きました。初めての詩人論でした。決してうまいと言えるものではありませんでしたが、誰のモノマネでもなく、ぼくらしい散文だったと思います。

ですから、同人誌に入って何がよかっただろうと、あらためて今、考えると、自分にはないものを持った人たちの、優れたものをしっかり学べたからだと、ぼくは思います。

人生で詩と付き合える場所を、確実に増やしてくれました。

あの時、もしも同人誌の誘いを断っていたら、というのは成り立たない仮定ではありますが、ぼくは多分、しばらくは詩だけを書いて、それで終えていたのだろうと思います。

上手宰、三橋聡、島田誠一、目黒朝子には、ですから、ずっと深く感謝しているのです。

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