2023年12月28日(木)全世界のひとが読んでくれたと思おう

木曜日の朝だ。曜日の名前の中で、ぼくは「木曜日」が一番好きだ。その日に、木が、けなげに立っている気がする。

昨夜は苦しい夢を見た。仕事で分厚い原稿を書いて、上司に渡して、でもぼくは、ほんとはもっとよいものが書けるはずだったのだと、自分では知っている、という夢だ。つらくて、かわいそうな夢だ。

ところで、ぼくは若い頃、初めての同人誌を出して、自分の詩が載った時、世界中の人がその詩を読んでくれているような気がした。とんでもなく誇らしく感じた。自分のようなものが書いた詩が、雑誌の中に収まっていることに、心がいっぱいになっていた。

もちろん現実は、そんなことはあるはずがない。同人誌の発行部数は200部なのだし、世界中の人どころか、世界の、ほんのはじっこを削ってこぼれたような数の人しか読むことはない。さらに、200部を送ったからといって、きちんと読んでくれる人は、たったの数人かもしれない。いえ、もしかしたら、どこかの変わった人、たったひとりかもしれない。

若い頃のぼくだって、さすがにそんなことはわかっていた。

でも、その一冊に込められた願いはとても大きなものだったし、届けたい思いは心からあふれるほどだった。

ぼくがその詩に託したものは、現実にはほとんど報われないだろう。でも、どこかに届けられて、たったひとりに読まれるだけでも、すごいことではないか。

そのたったひとりの読者こそが、わたしにとっての全世界なのだと解釈してしまって、どこがいけないだろう。

全世界の人のまなざしと同じほどの重さが、実際にぼくの心に流れ込んできているのだから。

さらに、もうひとつ、さびしげな詩を書いてみようと、小さな勇気を与えてくれるのだから。

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