2024年7月の記事一覧
俳句を読む 65 炭太祇 うつす手に光る蛍や指のまた
うつす手に光る蛍や指のまた 炭 太祇
たしか暑い盛りだったと思います。日記をめくってみたら2006年7月16日の日曜日でした。腕で汗をぬぐいながら歩いていると、前方を歩く八木幹夫さんの姿を見つけたのです。後を追って、神田神保町の学士会館で開かれた「増俳記念会の日」に参加したのでした。その日の兼題が「蛍」でした。掲句を読んでそれを思い出したのです。あの日、選ばれた「蛍」の句を、清水哲男さん
俳句を読む 64 清崎敏郎 氷屋の簾の外に雨降れり
氷屋の簾の外に雨降れり 清崎敏郎
子供の頃、母親のスカートにつかまって夕方の買い物についてゆくと、商店街の途中に何を売っているのか分からない店がありました。今思えば飾り気のない壁に、「氷室」と書かれていたのでしょう。その店の前を通るたびに、室内に目を凝らし、勝手な空想をしていたことを思い出します。氷屋というと、むしろ夏の盛りに、リヤカーで大きな氷塊を運んできて、男がのこぎりで飛沫を飛ばしながら切
俳句を読む63 境野大波 庶務部より経理部へゆく油虫
庶務部より経理部へゆく油虫 境野大波
なぜ油虫の行き先が経理部なのかと、真っ先に引っかかったのは、わたしが長年経理部で働いていたからなのでしょう。庶務部と経理部に、作者がどれほどの思い入れをしてこの句を詠んだのかはわかりません。ただ、経理で日々苦労を重ねてきたものとしては、つい余計なことを考えてしまいます。経理というのは(庶務も同様ですが)仕事の性質上、どんなに完璧に業務をこなしても、営業のよう