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ディズニープラスでしか見られない幻の映画『オズ / Return to Oz』(1985年)との再会


ディズニープラスの『オズ』映画ページより

幼少期のトラウマとの再会

 宇宙一前置きの長い映画感想文を書こう。子どもってものは感受性豊かだ。大人には理解できないものを喜んだり、過剰に怖がったりする。私はかなり怖がりの子どもだった。アラジンのアニメすら恐ろしくて、最後まで見ることが出来なかった。恐ろしいと感じた映画はたくさんあったが、なかでもとある映画のワンシーンがとにかく恐ろしく、長年頭に焼き付いて離れなかった。それがこの映画の、魔女が自分の顔を外す場面である。

 タイトルすら分からなくなっていたのだが、思わぬきっかけでこの映画と再会することになった。1939年の映画、『オズの魔法使』を好きになったことだ。映画の原作となった小説は人気シリーズで、続編は10作以上出ている。3作目まで読んでみると、顔を替える魔女が出てきたので、まさかと思った。その後色々調べて、ついにこの映画だと分かった。すぐにでも見たかったが、日本ではDVDやブルーレイが発売されていないため、その当時は諦めるしかなかった。

 それから数年後、ディズニープラスに加入するか迷っているときに、ふとこの映画の存在を思い出して調べてみると、配信されていた。早速私はディズニープラスに加入してオズを見ることにした。
 長年の恐怖の記憶の正体が遂に明らかに。因縁の宿敵との再会である。今の私はすっかり大人だ。ホラー映画と内臓が飛び出す系以外なら何でも大丈夫。所詮はディズニーが子ども向けに作った映画、かかってこいやという気持ちで再生を開始した。

いざ対決!を終えて思ったこと

 見終わっての率直な感想。ディズニーはよくこんな映画作ったなと感心した。日本でもVHSは発売されたようだが、DVDが出なかった理由がよく分かる。興行成績は不振だったがカルト的人気はあるとネットに書かれていたが、そりゃそうだろうなと思った。子ども向けの冒険ストーリーなのに、なんだか気味が悪いのだ。

 この映画は、原作小説の2作目と3作目をもとにしたもので、一度目の冒険から戻ってきた後のドロシーの物語だ。オズの国の話ばかりするドロシーを心配したエムおばさんが、ドロシーを怪しげな精神病院に連れて行くところから始まる。他の患者の悲鳴は聞こえてくるし、医者の助手は魔女にしか見えないし、オズの国に行く前から不吉な兆候しかない。その後、オズという夢のような国に辿り着いても、予想外に話は暗い。オズの国はすっかり荒れ果てていて、気味の悪い奴らの根城になっている。前回の冒険で出会った友達にもなかなか会えない。

 その後、お待ちかねの顔を外す魔女の場面にようやく再会できた。すごいぞこれは。本当によく出来ている。見事に気味が悪い。この魔女は顔をたくさん持っているのだが、替えの顔がズラっと並んでいる部屋が怖すぎて笑えてくる。全部の顔が絶妙にいい表情をしていてめっちゃ怖い。子ども向けの映画でよくこんな映像にしたなと思った。これをオズの魔法使いでやってしまう大胆さ、ディズニーはすごい。

 オズの魔法使いというと1939年の実写映画があまりにも有名だし、私も大好きだ。鮮やかな色彩のオズの国、楽観的な物語、楽しい歌と踊り。1939年のオズの魔法使を製作したのはMGMで、権利を持っているのはワーナーだ。つまり1939年の映画はディズニーとは一切関係がない。それでも、オズの魔法使いシリーズの映画化でディズニーが製作、主役も可愛らしい子役とくれば、無意識のうちに明るくて楽しい歌って踊る映画を期待してしまうものだろう。ところがこの映画は、映像は美しいが一切歌わない踊らない、しかも少し気味が悪い。公開当時楽しい映画を期待して見に行って映画館で絶望した親子連れとかいただろうなと考えてしまう。

 それでもディズニーはやりきったのだ。この美しくも気味の悪い映画をカタチにして世に送り出すために。これが勇気じゃなくて何なのか。気味が悪いのも完成度が高いからだ。公開当時は興行的に失敗しても、アメリカでは公開30周年記念のブルーレイが発売される程度には愛されているようだ。

 怖いものが見たいなら、ホラー映画を見ればいい。楽しいものが見たいなら、コメディ映画を見ればいい。世の中そんな単純な考えばかりでなく、複雑なものや曖昧なもので満ちている。これは美しくて、ややこしくて、ジャンルの曖昧な映画である。好きな人は絶対に好きだ。見る方法が限られているからこそ、有名ではないからこそ、是非試してみてほしい。あなただけのお気に入りになるかもしれない。

 余談だが、ディズニープラスで再生して一番驚いたのは、日本語吹替の音声が選択できることだ。作品ページにもファミリー向けと書いてあるし、一応子どもにも見せる気があるらしい。


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