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ブラザー工業がローランドへのTOB価格を引き上げず ー プレスリリースを公表


ブラザー工業が事実上の買収断念

今週から企業の通期決算発表が本格しましたね。半ば以降には各社の決算説明会が開催されますので、来週からは、業務時間中もスキマ時間を見つけては、色々な企業の決算説明会資料のチェックにあけくれる予定です。
さて、前にブラザー工業がローランドDGに同意なき買収をしていることを記事に書きましたが(最後に再掲しております)、今般、ブラザーはTOB価格の引き上げをせず、買収を事実上断念した旨の報道が次のとおりありました。


5月9日にブラザー工業が次のとおりプレスリリースを公表しています。

https://download.brother.com/pub/jp/news/2024/20240509.pdf

今回の断念に対する怒りが文章に表れていますね。何か所かプレスリリースから抜粋します。

対象者は、公開買付者から当該意向表明書を受領したにもかかわらず、公開買付者を入札 プロセスやデュー・ディリジェンスのプロセスに招聘することなくマネジメント・バイアウト(MBO) を推進してきたことに加え、2024年3月13日以降付プレスリリースを公表した以降は、ディスシナジーが発生する可能性を口実にして、公開買付者に過度に詳細な説明や提案の具体化・定量化の要請を継続的に求めてきました。このような経緯から明らかなように、対象者の対応・手続は、当初から一貫して、公開買付者による対象者の経営支配権の取得を阻止することを実質的な目的として行われたものであり、経済産業省の「企業買収における行動指針」の趣旨に悖るものとして、日本の資本市場に対する内外の信頼を著しく損なう行動であったと言わざるを得ないと考えております

2024年5月9日のブラザー工業のプレスリリースより一部抜粋

対象者とはローランドDGのことです。ブラザーの買収提案を真摯に検討してこなかったことを批判しているようですね。もし、ブラザーの言うとおりということであれば、ローランドの対応は批判される行動であるかも知れません。MBOを検討中に、突如「買収するぞ!」と言われたら、ローランドとしては頭にくるとは思いますが、株主にプラスになる提案があれば、それを真摯に検討することは買収対象会社の経営陣には求められているのですから。

公開買付者としては、対象者の2024年4月26日付「XYZ株式会社による当社の普通株式に対する公開買付けに 関する意見の変更についてのお知らせ」に記載された対象者の意見を踏まえても、対象者の想定するディスシナジー発生の論拠には論理の飛躍があり、当該ディスシナジーが発生する蓋然性は低いと考えており ます。公開買付者が過去に完全子会社化した会社も、サプライヤーの協力を得ながら順調に成長を果たし ていることからも、公開買付者としては、現時点においても、対象者から友好的かつ建設的な姿勢をうか がうことができるのであれば、公開買付者が対象者の中長期的な企業価値向上を実現することのできる最 適なパートナーであると考えております。 しかしながら、対象者の取締役会及び特別委員会との協議及び交渉の経緯、報道対応その他諸般の事情を考慮し、特に、事実誤認に基づく主張又は具体的な根拠を欠く主張を繰り返す対象者の経営陣との間で、対象者 の企業価値を最大限向上するために必要不可欠な信頼関係を構築することは今後見込めないとの判断のもと、公開買付者は、非常に残念かつ遺憾ながら、本日、本公開買付けにおける買付け等の価格を5,200円から引き上げないことを決定いたしました

2024年5月9日のブラザー工業のプレスリリースより一部抜粋

「信頼関係を構築することは今後見込めない」とあります。結局、同意なき買収の肝はこの点のような気がします。

ブラザーはTOB価格のアップを提示すればTOBは成立したかも知れません。けど、結局、対象会社の経営陣と信頼関係が構築できない、つまり一緒に企業価値を高めることの方向性が一致していないのであれば、買収後の統合作業は成功しません。買収後に、言うことを聞かない対象会社の経営陣をクビにすることも勿論可能ですが、言うことを聞かない経営陣が多すぎる場合には難しいですよね。そういう点では、同意なき買収を成功させるには、事前に対象会社の数名の経営陣に内密にコンタクトをして、買収後のポジションなどを約束させることも考えられますが。
いずれにせよ、信頼関係が構築できないと買収のシナジーを発揮できず、高い買い物になり、今度はブラザーが自社の株主から買収は失敗だったのでは?と批判されるリスクがあるのです。

(関連記事再掲)ブラザー工業の同意なき買収

これまで2回記事を書いておりますので再掲します。