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PBR対策を開示した企業名の公表が1月15日から始まります ー 公表を受けて投資家がすべきことは?


PBR対策企業の公表が1月15日から始まります

本日の日経新聞にも次の記事がありましたが、1月15日から東証によるPBR対策企業の公表が始まります。

これは何かといいますと、昨年10月26日に東証が公表した「『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応』に関する開示企業一覧表の公表等について」です。次のURLに記載の資料です。

https://www.jpx.co.jp/news/1020/bkk2ed0000000fe5-att/bkk2ed0000000fgt.pdf

明日、1月15日から企業名の開示がはじまり、以後、1ヵ月毎に更新されることになっています。要するに、プライム・スタンダード上場企業の全てに株価を意識した経営の在り方について、開示をすることが求められているわけです。

プライム・スタンダード上場企業が開示すべき事項は?

昨年3月31日に東証が「資本コストや株価を意識した 経営の実現に向けた対応について」を公表し、企業に株価を意識した経営の在り方を求めてきました。東証が開示した資料のURLは次のとおりです。
https://www.jpx.co.jp/news/1020/cg27su000000427f-att/cg27su00000042a2.pdf

この中で開示が期待される項目として、「現状評価」「方針・目標」「取組み・ 実施時期」の3つが記載されています。それぞれ該当する箇所を紹介したいと思います。

まずは「現状評価」については、次のことが求められています(以下の中の太字箇所は、私が強調のためハイライトしています)。

• 「現状分析」で実施した自社の資本収益性や市場評価に関する分析・評価について、投資者にわかりやすい形で示すことが期待されます。
• 資本コストの数値自体の開示は必ずしも求められませんが、自社の資本コストについての考え方、計算手法など算出の背景にある考え方などについて説明することが考えられます。
• また、資本収益性や市場評価に関しては、単年だけではなく、複数年など一定期間の状況を分析・評価すること が考えられます。

東証「資本コストや株価を意識した 経営の実現に向けた対応について」より

次に「方針・目標」については次のとおりです。

• 資本収益性や市場評価に関して、改善に向けた方針や、具体的な目標について、投資者にわかりやすい形で示すことが期待されます。
• 目標とする指標は、自社の状況を踏まえて設定してください。なお、目標の設定に当たっては、具体的な到達水準・到達時期を示す方法のほか、目指すレンジを示す方法や、ROEやEPS(1株当たり利益)の成長率など 変化率のトレンドを示す形も考えられます。
• PBR1倍割れは、資本コストを上回る資本収益性を達成できていない、あるいは、成長性が投資者から十分に 評価されていないことが示唆される1つの目安と考えられます。他方で、既に1倍を超えている場合でも、更な る向上に向けた目標設定を行うことが考えられます。
• 現状の資本収益性や市場評価について、既に十分な水準が実現しており、改善の必要がないと考える場合には、 改善に向けた方針や目標に代えて、その旨を示すことが考えられます。

東証「資本コストや株価を意識した 経営の実現に向けた対応について」より

最後に「取組み・ 実施時期」です。

 •資本収益性や市場評価の改善に向けた具体的な取組みや、施策の実施時期について、投資者にわかりやすく示すことが期待されます。
• 経営資源の適切な配分の実現に向けた取組みを示すにあたっては、たとえば、グロース市場における「事業計画 及び成長可能性に関する事項の開示」で開示が求められている内容(事業のビジネスモデル、市場環境、競争力 の源泉、成長戦略など)や開示例を参考にしていただくことが考えられます。
• 成長性等に関する投資家からの評価の改善という観点からは、自社の事業の方向性、成長の実現に向けたサステ ナビリティや知的財産を含む無形資産に関する取組みに関しても併せて示すことが考えられます。
• 取組みの一環として、役員報酬の算定に資本収益性や企業価値の改善に関する指標を含めるなど、持続的な成長 に向けた健全なインセンティブとして、経営陣の報酬制度を活用していくことが考えられます。

東証「資本コストや株価を意識した 経営の実現に向けた対応について」より

公表を踏まえて個人投資家がすべきことは

コーポレートガバナンス報告書の該当箇所の確認

1月15日に公表されるのは、株価を意識した経営を公表している企業名でであり、各社別の具体的に開示された施策を東証が公表するわけではありません。東証はコーポレートガバナンス報告書に株価を意識した経営の施策について記載している企業名を機械的にリストアップします。投資家が一番気になる各社の株価向上施策が細かく一覧で知ることはできません。

そこで、投資家としては、各社のコーポレートガバナンス報告書を見る必要があります。同報告書で「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」というキーワードで検索します。これにより、各社の施策の開示内容であったり、開示のありか(中期経営計画、決算説明会資料など)が分かります。

ROE向上施策、PER向上施策の具体的内容の確認

このようにして、中期経営計画や決算説明会資料などでの株価を意識した経営についての記載の箇所を見ることになりますが、見るべきポイントはROEの向上施策とPERの向上施策です。PBR=ROE×PERですので、PBRを構成する2つの要素を見に行くわけです。

特にROEに関しては、利益率の向上について企業がどう開示しているかがポイントになります。株主還元等でもROEは向上しますが、それだけだと一過性のROE向上にしかならない場合があります。ROE向上の肝は、利益率の向上ですので、本業である営業利益率の向上を企業がどう考えているかが重要です。

企業のIR部門や株主総会での質問

最後にはやはり企業への質問です。開示内容が腑に落ちる内容であれば問題ないのですが、抽象的な内容であったり、手抜きの開示のケースも多いことが想定されます。その場合には、その企業の株式を購入して株主として、企業に具体的な開示を強く促すということが大事だと思います。

「自分は100株しか持っていないから質問が恥ずかしい」と思う個人株主の方も多いと思います。けど、そんな考えは全く不要です。100株あれば、その企業の経営の是非を判断する1票が議決権としてあるわけですので、企業に質問するのは株主の権利です。100株だろうが1万株であろうが基本的な考えは同じです。

そもそも、そういう個人の質問をないがしろにする企業があるとすれば、それはその企業の担当者がおかしいのです。ということで、個人投資家や個人株主は、コーポレートガバナンス向上に向けての合理的な質問は、躊躇なくすることが大事です。また、それにより、企業側のステークホルダーに対する取り組み意識の改善に繋がるのだと思います。