コーポレートガバナンスとは?- 個人投資家・個人株主のための分かりやすい解説④(社外取は質が大事です)

前回、「社外取が社内取と戦う」には、最低3分の1以上の人数が必要ということを書きました。数は力なりです。昔、田中角栄が「数は力、力は金だ」といっていましたが、頭脳明晰な方が1名いても、数が少なければ大勢の集団に勝てないのは世の常です。

では、社外取は数さえ多ければ足るのでしょうか?結論からいいますと数だけでは駄目で、一定の質が重要です。当然と言えば、当然のことですが・・。では、この質とはどういうことでしょうか、つまりどういう質というか能力を持った社外取である必要があるでしょうか?

この点、コーポレートガバナンス・コードの原則4-11に次のとおり記載されています。
「取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、 ジェンダー や国際性 、職歴、年齢 の 面 を含む 多様性と適正規模を両立させる形で構成 されるべきである」

多様性のあるメンバーで構成されるべきとあります。けど、これだけですと少し抽象的ですね。そこで、そもそもとして取締役会の役割が何であるかを考える必要があります。その上で、この役割を果たせる能力が必要ということになります。

取締役会の役割は、大きな戦略の方向性を決定することと、経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うことがあります。リスクテイクとは、CEOはじめ経営陣幹部がリスクのある経営環境下で企業経営を行うことです。
企業のリソースは、人・モノ・カネと言われています。この3要素を上手く活用して企業経営を行うのであり、これが理解できる能力が社外取には必要です。分かりやすくいうと、事業を理解する能力が肝になります。この点、法律専門家や大学教授はじめ特定の分野に精通した専門家が社外取になっている企業も世の中に多いですが、私の感覚としては果たしてどうかな?と思うことがあります。私の投資先企業の1つは、社外取3名のうち、2名が弁護士ですが(しかも人事労務系の法律事務所。特に労務問題があるとは思えないのですが・・)「これってどうなの?」といつも思っており、来年の総会では、質問をする予定です。

だって、これらの方々は特定の分野については専門性が非常に高いとは思いますが、カバーする担当領域がかなりニッチで企業の「ビジネス=商売」については、どこまで深く理解しているのかということです(もっとも、あくまで全体的に見た場合の印象であり、個々には深く理解している方も当然いるとは思います)。

そもそもとして、毎月の取締役会で法的リスクや特定の学問的見解が毎月議論されるということは普通考えにくいのであって、そうであれば、あえて社外取に起用せずとも、通常の案件ベースでアドバイスを求めれば足るように私は思います。もっとも、会社の営む事業が常に高い法的リスクや学術的確認を必要とするのであれば、その領域に精通した法律専門家や大学教授が社外取に入ることもあるのかも知れませんが、普通の事業会社では、まずそういうケースはないですよね。

基本的に取締役会は、ビジネスの議論をするわけです。例えば、今後の事業方針、販売方針、技術方針、設備投資、研究開発、株主還元、人事方針、採用方針等です。もっとも法律専門家や大学教授などであっても、コーポレートファイナンスや企業の事業運営に対する実務経験があり、造詣が深いということであれば話は別とは思います。

私のこれまでの実務感覚では、社外取には、自社と同様の事業を営む自社と同等規模又は自社より規模の大きい企業の経営経験者、金融・資本市場関係の経験者が必須で、これ以外にその企業の個別事情に即した経験がある社外取がいればよいのかなと思っています。

過去数年前までは、社外取は数を増やせと資本市場からは言われていました。それはそもそも社外取の員数が絶対的に少なかったので、金融庁、経産省等は数を増やすことを第一に考えていたのです。けど、数は一定程度増えてきたので、今後は質です。

個人投資家としては、社外取の専門領域(スキル・マトリックス)を見て、当該社外取が取締役会でどういう発言をして、また企業価値の向上にどう貢献しているのかを細かく質問すべきと考えます。現に、機関投資家と対話(エンゲージメント)をすると、この手の質問は機関投資家から結構出てきます。「社外取と直接話をさせて欲しい」という要望も機関投資家から出ています。私は実務で機関投資家とのエンゲージメントに7年以上関与していますが、3~4年ほど前から、機関投資家からのこの手の要望が増えてきました。
とは言え、社外取も忙しいし、また、遠慮なく、馬鹿正直に投資家にペラペラ話をされても困るので、対話をする代わりに統合報告書で社外取との対談やインタビューを掲載する企業が増えているところです。

ので、株主総会等で質問するのは全くおかしなことではないので、「こんなことを聞いたら恥ずかしい」とか思うことなく、個人株主は、社外取がどう機能しているのか、何を社外取に会社は期待しているのか等を質問してよいかと思います。

ところで社外取の数の話に戻りますが、過半数は必要でしょうか?この点、実務を踏まえた実態について次回以降に説明したいと思います。