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ビジネスマンのためのさくっと分かるコーポレートガバナンス ー トヨタ自動車の会長選任議案に議決権行使助言会社が反対の意味(前回の補足です)


海外機関投資家は全てISS社の基準に従うのか?

前回、トヨタ自動車の会長選任議案に議決権行使助言会社のISS社が反対推奨したことについて次のお話をいたしました。

この際に海外機関投資家の多くがISS社の反対推奨に賛同するということを書きましたが、少し正確にお話をします。

ISS社の基準を採用する機関投資家が多いのが現実ですが、海外機関投資家の中には、ISS社でない助言会社もいます。それはグラスルイス社です。時々、新聞報道でも目にされるかと思います。海外機関投資家の中でグラスルイス社の基準を採用する企業は、ISS社が反対推奨しても、グラスルイス社の推奨基準に従います。

ほかには、そもそも議決権行使助言会社の基準を採用せずに、自社独自の基準で賛否判断をする海外機関投資家もいます。

では、どれが多いのかと言いますと、私の実務感覚ですと、やはりISS社社の賛否推奨を採用する投資家が多い気がします。それは、ISS社の判断結果への信頼が厚いのでしょう。グラスルイス社も色々とセミナーを開催したり、営業提案をして頑張っているのですが、現時点ではISS社の方がだいぶ優位にあるような気がします。

ISS社の反対推奨を受けたトヨタ自動車はどういう対応をするか?

今回、ISS社は、完全子会社のダイハツ工業などで認証不正が相次いでいることを挙げて「最終的な責任がある」として豊田会長の選任議案に反対推奨をしたわけですが、反対推奨をされたトヨタ自動車はどういうアクションをとることが考えられるでしょうか?

2つ考えられます。1つは何もしないということです。これはアクションとは言えないかも知れませんが・・。いちいちアクションをとることも面倒なところもあるし、ISS社の議決権行使ポリシーに明らかに抵触している場合には、アクションのとりようのないところです。

もう1つは、ISS社の反対推奨レポートに対して反論を行うことです。つまり、ISS社は反対推奨をしているが、かくかくしかじかの理由で「その反対推奨は合理的でない」ということを東証に任意でプレスリリースを出し、かつ、ホームページでも開示します。そういうことをしている企業も時々散見します。

私も過去にある総会議案でISS社の反対推奨が出ることを予想して、東証に出すプレスリリースの英文を作成して準備していたことがあります(この時は結果として賛成推奨が出たのでプレスの公表はしませんでしたが)。

今回のトヨタの事例のように品質不正を理由に反対推奨している場合には反論の余地もあるように思います。だって、品質不正にも様々なレベルのものがあり、また、仮に発生しても、その後に直ちにに再発防止策を講じているような場合には必ずしも会長に反対しないでもよいという考え方もあります。まあこのあたりは明確な基準がないので、反対推奨の反論をしてもどこまで海外機関投資家の賛同を得られるか分かりませんが。