企業価値向上を投資先企業に促すためのコーポレートガバナンス・コードの使い方(第2回) ー 政策保有株式の問題を指摘しましょう
コーポレートガバナンス・コードが株主の武器です
前回、第1回目で次の記事を掲載しましたが、本日は第2回目ということで、投資先企業の企業価値を向上させるにあたってのコーポレートガバナンス・コードの使い方について紹介したいと思います。平たく言うと、コーポレートガバナンス・コードで理論武装して、投資先企業の統治改革、ひいては株価の向上を迫るといったところです。
前回コーポレートガバナンス・コードの5原則を紹介しましたが、この5つの基本原則のうち、本日は第1原則から、物言う株主の視点から企業にどういう提案ができるかということを書いていきます。第1原則の「株主の権利・平等性の確保」ですが、次のとおり規定されています。
ここで言っていることは、要するに少数株主を保護せよということです。会社法上、株主平等の原則がありのですが、世間の実情を見ると安定株主が岩盤になっており、安定株主の考えが優先され、少数株主の利益がないがしろにしてきたことから、会社は少数株主を十分に配慮せよということを言っているわけです。
政策保有株式に関するコーポレートガバナンス・コードの規定
この第1原則の関係では、「政策保有株式」「資本政策の基本的な方針」などが株主にとって武器となる規定ですが、今回は、まずは政策保有株式に関するコーポレートガバナンス・コード(以下、ガバナンス・コードと略します)の使い方を説明したいと思います。ガバナンス・コードにおける政策保有株式の規定は次のとおりです。
政策保有株式は2018年のガバナンス・コード改訂の時に大きく加筆されましたが、ここでのポイントを簡潔にいうと次の3点です。
第1:企業は政策保有株式を縮減せよ
第2:保有するとした場合、保有に合理性があることを開示せよ
第3:保有する場合、議決権行使基準を策定して、その基準に即した適切な議決権行使をせよ
政策保有株式のスピーディーな完全縮減を投資先企業に促しましょう
まず第1の「企業は政策保有株式は削減せよ」ということが企業には求められています。では、企業はどこまで縮減すればよいのでしょうか?
ガバナンス・コードでは縮減の限度は規定されていませんので、政策保有株式の保有がゼロとなるまで縮減が求められていると考えてよいです。従い、株主は、投資先企業が政策保有株式を保有する場合、「早く全て売却せよ」ということを要請できます。「売却して売却代金を株主に還元せよ」という主張です。
議決権行使助言会社であるISSは、純資産の20%を超える政策保有株式を有する企業の経営トップに反対推奨しており、多くの機関投資家も、今のところ純資産の20%を目安にしているのが現状です。このため、「投資先企業は政策保有株式が沢山あるけど、純資産の10%程度だし、これ以上の縮減を求めることはおかしいのかな?」と思う個人株主の方もいるかも知れません。
けど、そんな考え方をする必要はありません。ISSや機関投資家の20%は、あくまで経営トップに反対する場合の基準に過ぎません。「純資産額の20%を超える政策保有株式を抱えているなど大問題で、そんな企業の社長はクビだ」という堪忍袋の緒が切れる基準なのです。機関投資家は純資産の20%を超えない政策保有株式の保有を許容しているということでは決して全くありません。ここは結構大事なところです。
ということで個人投資家・個人株主の方は、投資先企業が政策保有株式を有する場合、その金額合計が多い、少ないに関わらず、政策保有株式をゼロにすることを求めるべきであり、それは、資本市場関係者の考え方と同じであるということでご安心下さい。