複数の事業セグメントを持つ上場企業の簡易的な理論株価の算出 ー 投資銀行でなくても出来る簡易的な株価算定(バリュエーション)の方法です

本日は、理論株価の簡易的な評価手法について紹介したいと思います。

投資先企業の株価が安いか否かの判断の1つの指標はPBRですが、そもそも本来のあるべき株価(=理論株価)と市場株価の乖離を把握しておくことも個人投資家にとっては重要です。これをしておくと、個人投資家・個人株主の方でも投資先企業の経営トップ、IR部門に対して強い立場で会話ができます。

1年以上前の新聞報道で、ある大手のエレクトロニクス企業(誰でも知っている超大企業)の事業が8つのセグメントに分かれているところ、事業別の収益力をもとにこの企業の事業価値を測り株式価値を算定したところ、市場株価よりだいぶ低いという記事がありました。つまり、コングロマリット・ディスカウントにあるということです。

この時の価値算定の手法は、8つの各事業について各事業の競合会社のEV/EVITDA倍率の平均値をベースにして算出した各事業価値を合算して、ネットデットを控除して株式価値を算出するというサム・オブ・ザ・パーツ(SOTP)の手法です。

このSOTPの手法ですが、複数の事業セグメントのある企業で事業価値(=EV といいます)、株式価値を簡易的に算出する際に使う手法で、個人投資家の方も是非覚えていただけると便利かなと思います。証券会社の投資銀行部門に依頼して事業価値、株式価値を算定する際にも良く使われる手法の1つです。具体的な例をあげて簡単に紹介します。

  1. X会社はA事業とB事業の2つの事業セグメントがあります。仮にA事業が金属事業、B事業が繊維事業とします

  2. A事業のEBITDA(=営業利益+減価償却費)が30億円、B事業のEBITDAが10億円とします

  3. ここでA事業の競合の金属事業会社グループ、B事業の競合の繊維事業会社グループの各々のEV/EBITDA倍率の平均値を算出します → EV(事業価値)=株式時価総額+ネットデット(有利子負債ー現預金)で、これをEBITDAで割るとEV/EBITDA倍率が算出

  4. A事業の競合(上場会社)のEV/EBITDA倍率が10倍、B事業の競合(上場会社)のEV/EBITDA倍率は8倍だったとします

  5. この競合会社の数値を基準にしてA事業、B事業のあるべきEV(理論上のEV)を算出します → A事業のEV=30億円×10倍=300億円 / B事業のEV=10億円×8倍=80億円

  6. 2つの数値からX会社の全体の事業価値(EV)は380億円となります

  7. これにX社のネットデットを引くと理論上の株式価値になり、これを発行済株式総数で割り、理論株価を算定

  8. これにより算定された数値が市場株価と比べて大きいか小さいかを比較

以上になります。市場株価の方が低いと「低収益事業を抱えているためコングロマリット・ディスカウントの状況にある」「株価向上のためEBITDAの低い事業を売却せよ」という方向になります。いかがでしょうか。割と簡単に出来ると思います。

投資銀行や機関投資家も簡易的には、この手法を使用していることも多いので(もちろんこの方法だけではありませんので1つの手法ということです)、この方法で算出しておけば、大きな方向感はすりあうと思います。

個人投資家の方もこのサム・オブ・ザ・パーツの手法で投資先企業の理論株価をざっくりと算出して、市場株価がこれより大きく下回るような場合には、経営トップに対して「理論株価はいくらと考えているか?」「低収益事業の売却をすべきではないか?」「株価をどのように向上させるのか?」などの強気の質問を株主総会などですることが可能になります。