ROEが低いと企業にはこんなリスクが生じます ー シンプルですが大事なことです

先日からPBRに絡めてROEの話に触れていますが、そもそもROEが低いと企業にはどんなリスクが生じるのでしょうか?意外に知っているようで知らない方が企業には多いので、分かりやすくお話をしたいと思います。

まず、ROEが低いと機関投資家が不機嫌になりますね。以前に記事でROEが8%を下回ると投資家は不機嫌になるということを書きました。仮にある会社のROEが4%とした場合、5%を下回るので経営トップの取締役選任議案で反対票が増えるというリスクが1つありますが、他にはどんなリスクがあるでしょうか?

まず、最初に株が売られるリスクです。ROEが低いと機関投資家はその会社が株主を軽視していると考えます。とすると、「こんな株主を軽視する会社の株はさっさと売却して、他の銘柄を買おう」となるわけです。機関投資家は1銘柄につき数十万株から数千万株を保有しています。これが市場で売られるとなると、株価が下がることになります。

すると、売手がいれば買手がいるわけですから、売られた株を買う人が出てきます。この買手がポイントです。つまり、会社にとって好ましくない者(=アクティビスト)が株主になる可能性があるというリスクです。特に株価が下がっている局面ですので、アクティビストにとっては安く株を買えるわけですから、絶好のチャンスです。特にその会社の理論株価が1000円であるところ、売りによって市場株価が500円程度になっていたら、絶好のチャンスです。

そして、アクティビストが相当数の株を取得した後、会社に企業価値向上、つまり株価向上に繋がる様々な提案をしてくるリスクがあります。例えば、増配要求、自社株買い等の資本政策に絡む提案から、低収益事業の売却、または事業売却を進めるためのアクティビストの息のかかった役員の選任提案などです。やっかいですね。株主提案の場合には、会社は弁護士を使って取締役会の意見を公表したり、株主総会の招集通知の記載を工夫したり、株主提案に賛同しないよう機関投資家に説明したりして、コストと時間がかかります。

結果、会社は、アクティビストに株を持たれている間、このアクティビストを気にかけて企業経営をせざるを得ず、本来予定した企業運営が出来なくなるリスクが生じます。今期は「大胆に100億円の設備投資をするぞ!」という計画をしていても、アクティビストから後から文句を言われたりするとやっかいだから「70億円程度に縮小しておくか」というように経営陣が大胆な事業運営が出来なくなります。委縮してしまうということです。これでは、いずれ競合他社との競争にも負けてしまいます。

以上です。かなりシンプルに書いていますが、これって大事な根本的なことです。機関投資家の方にはあまりに初歩的なことですが、一般の事業会社では経営トップを含め、分かっていない方が結構多いのが実情です。資本市場の知識がない経営陣が日本には非常に多いと言われています。営業一筋、研究開発一筋、生産一筋、人事一筋といったような方は、経営トップになるまで「機関投資家」「ROE」「PBR」「PER」等の言葉の意味を知らなかったというケースは非常に多いです。

纏めますと次のとおりです。

  1. 機関投資家が保有する株式を売却し、結果、株価が下がる

  2. このタイミグで売られた株を買う、つまり会社にとって好ましくない株主(アクティビスト)が出現する

  3. アクティビストが会社に様々な提案をする。極端な株主還元であったり、事業の売却、役員の交代等

  4. 結果、会社の経営陣はこの株主に翻弄され、経営が委縮する。既に作成した中期経営計画の策定の見直しを迫られたり、会社の事業運営や個々のコーポレートアクションについてアクティビストの目を気にする必要がある

4がポイントです。本当にアクティビストが行動を起こすと取締役会では常にアクティビストの動向を気にして議論せざるをえず、まともな経営が出来なくなるケースが多いのが現実です。発展的な前向きの議論が困難になります。取締役にアクティビストサイドの人物が選任され、取締役会に参加することになった場合には、さらに大変です。

というようにROEを可能な限り高めておかないと、大変なことになる可能性がありますので、企業の方は低ROEの状態を放置し、結果、機関投資家に見放されて、株を売られてしまう前にROE向上施策を真剣に検討し、方策を講じることが大事です。